判例時報の死刑問題特集
判例時報で、2号にわたって死刑問題についての特集が組まれていた。その内容と感想について、簡単に記しておく。
「特集 死刑制度を考える【上】」
『判例時報』2264号(平成27年9月21日号)が、「特集 死刑制度を考える【上】」。
- 死刑制度に関する平成26年度政府世論調査の結果を参考にしつつ、わが国の死刑制度存廃論の状況を概観する記事
- 2014年4月に沖縄で行われた死刑問題シンポジウムの紹介文及び同シンポジウムの反訳
が収められている。なお、同シンポジウムの出演者は以下のとおり。
- 死刑廃止論講演者・小川原優之
- 死刑存置論講演者・本江威憙
- 司会・赤嶺朝子
- 質疑応答進行・釜井景介
- コメンテーター・加毛修(日弁連死刑廃止検討委員会委員長)、島袋秀勝(沖縄弁護士会会長)、岩橋英世(九弁連死刑廃止検討PT委員長)
小川原の講演は、袴田事件を通じて、冤罪事件を戦おうとする者がいかに大きな負担を強いられるかを中心的に説きつつ、死刑手続をめぐるさまざまな問題点をも指摘するものであり、勉強になった。特に、法は死刑確定者が心神喪失の状態にあるときには刑の執行を停止するよう定めているところ*1、心神喪失状態にあるかどうかの判断を手続的に争う方法もないとの指摘は、重要であると思う。
本江の講演は、基本的には、かつて千葉景子法務大臣(当時)が設置した「死刑の在り方についての勉強会」*2の第3回において述べたところを詳細にしただけのものであり、あまり目新しい内容はなかったように思う。ただし、取調べの可視化については、勉強会では言及がなかったが、本講演でアメリカの例なども挙げつつ見解が示されている。
質疑等では主に、被害感情、誤判のおそれ、死刑の犯罪抑止力といったテーマについて意見が述べられた。
「特集 死刑制度を考える【下】」
『判例時報』2266号(平成27年10月11日号)が、「特集 死刑制度を考える【下】」。
- 2013年12月に長崎で行われた死刑問題シンポジウムの紹介文及び同シンポジウムの反訳
- 森炎「自由刑と死刑――死刑制度肯定の立場から」
- 松葉知幸「大阪弁護士会における死刑制度に関する活動について」
が収められている。なお、同シンポジウムの出演者は以下のとおり。
土本の講演は、絞首刑の残虐性について説くもの。憲法36条にいう「残虐」性は、①肉体的・精神的苦痛、②身体を損傷する程度、③一般人の心情において惨たらしく感じるかどうか、という3点から判断されるべきところ、絞首刑はそのいずれの点においても問題があるとする。なお、絞首刑の与える苦痛については、以前本ブログでもとりあげ、土本の主張についてもその記事の中で紹介したことがある。
新倉の講演は、死刑制度の国際潮流を紹介するもの。国連加盟国は193プラスアルファ、そのうち死刑廃止国は48、事実上の死刑廃止国が42 。アムネスティの報告書によればG8中死刑を執行したのは日本とアメリカのみであり、そのアメリカでもトレンドとして見ると死刑廃止の方向に向かっているとする*3。日弁連が行ったテキサスでの調査についての簡単な報告もある。
パネルディスカッションでは主に、死刑を容認する世論、被害感情、誤判のおそれ、更生可能性、という4つのテーマについて意見が述べられた。また、日本における死刑問題の論議の方向性についても提案がなされた。