条文の文言からの乖離に関する覚書

平成28年1月8日の衆議院予算委員会において、枝野幸男安倍晋三に対して、臨時国会の件について糺していた。昨年10月半ばに、憲法53条の規定に基づく、総議員の4分の1以上による臨時国会召集の要求があったにもかかわらず、その後ついに安倍内閣が臨時国会の召集を決定することはなかったという例の件である。

枝野の質問に対し、安倍は大要以下のように答えていた*1

憲法53条は召集時期について定めを置かずその決定を内閣に委ねているものの、内閣が合理的期間内に召集を決定せねばならないのは確かである。

もっとも、合理的期間内に通常国会が開かれる見込みがある場合、臨時国会通常国会とでその権能に異なるところはないため、あえて臨時国会の召集を決定せずとも憲法に反することにはならない。 

この後、枝野からはさらに2カ月以上もの期間が合理的期間内であると言えるのかという趣旨の追及がなされ、今回の件との関係に限って言えばむしろその点こそが重要であろうと思うが、本記事では割愛する。

さて上記のとおり、安倍は、一定の条件下であれば、臨時国会の召集を決定せずとも憲法53条に反しない旨を述べる。私は、このような解釈に対して必ずしも批判的というわけではない。ただし、このような解釈は、条文の文言を忠実に解釈するならば、絶対にでてきようのないものである。憲法53条の条文を挙げる。

第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

このように、憲法53条は、(いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば)内閣は臨時国会の召集を決定しなければならないと明確に規定し、なんらの例外も設けてはいない。そうである以上、臨時国会の召集を決定しないことが、例外を設けず臨時国会の召集を「決定しなければならない」とする憲法53条に反しないなどという帰結は、条文の文言を忠実に解釈する限り導き得ないものである。

以上、近い将来に予想される憲法改正論議においてなんらかの手がかりとなることを期待して、ある意味において条文から乖離した解釈が堂々と行われている一例を記しておく。

*1:正確な発言内容は、後日公開される国会会議録参照。