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いかがわしさの正体

nogawamさんの以下の記事を読んだ。

歴史修正主義とレイシズムを考える: 歴史修正主義は何によってそう認定されるか

歴史修正主義的な主張とはいかなるものか、ということについて説明する記事であるが、これを読んで、私が 先日の記事で述べた、いわゆる芦田修正論*1から感じとるべき「いかがわしさ」の正体について、明快な視点を与えていただいたように思うので、備忘として記しておく。

 

nogawamさんは次のように述べる*2

誤解されがちなのですが、歴史修正主義的な主張は「結論が通説と違うから」とか「日本軍を美化しているから」といった理由で「歴史修正主義的だ」と判断されるわけではありません。(略)肝心なのはむしろある歴史記述(と主張されているもの)がどのような方法で導き出されているか、です。史料の取捨選択やその解釈、史料からの推論などがまったく妥当性を欠いている場合に「偽史」とか「歴史修正主義」という判断が下されるわけです。

結論が通説と異なるから歴史修正主義的であるとされるわけではない。その結論を導き出した解釈や推論等がまったく妥当性を欠くこと、すなわち「おかしな方法」が用いられていることによって、歴史修正主義的であるとされるのだ、との指摘である。

このような視点から見返すならば、芦田修正論がとる解釈や推論は、なるほどいかにも「おかしな方法」だ。

芦田修正に先立つ昭和21年6月26日の衆議院本会議において、当時の首相吉田茂が、「9条2項によって一切の軍備を認めない」旨を明言していたこと。そうであるにもかかわらず、 芦田修正を行う過程において(一切の軍備を認めないとの立場を転換するのであれば当然なされるべき)「前項の目的を達するため」との文言の追加による戦力保持の可能性についてまったく議論がなされず、却って一切の軍備を廃するかのような報告をしていたこと。こうした、修正が解釈にいかなる影響を及ぼすかを検討するにあたって真っ先に考慮されねばならないはずの議論の経過を無視し、後年芦田自身がそのように主張していることを奇貨として、9条2項は「(侵略戦争等の放棄という)前項の目的を達するため」に戦力不保持を定めるにすぎず、自衛のための戦力保持は禁止していないとの結論を導く。文言上まったく不可能とまでは言えないにせよ、あまりにも強引で、常識から外れた「おかしな」解釈だ。してみれば、芦田修正論は、ある意味で*3歴史修正主義的な主張であるということもできるのかもしれない。

 

また、nogawamさんはこうした歴史修正主義的な主張が受容される理由について、次のように述べる。

一般的に言えば歴史修正主義が受容されるのは政治的な動機によります。政治的な動機によってきわめて強いバイアスがかかっているために、ふつうならとうてい受けいれられないような強引な「方法」が看過されてしまうわけです。この意味で、私は歴史修正主義を「歴史学を装った政治運動」だと考えています。

歴史修正主義的な主張が一般に政治的な動機と結びつきやすいとの指摘である。芦田修正論が声高に主張されはじめた時期を考えると、この指摘もきわめて示唆に富む。

芦田自身は、芦田修正論的な主張を、昭和21年11月に刊行した『新憲法解釈』*4においてすでに展開していたと述べる*5。しかし、同書に明示的にそのような主張が行われている部分はない。それどころか、「侵略戦争を、否認する思想を憲法に法制化した前例は絶無ではない」が、「全面的に軍備を撤去しつつ戦争の否認を規定した憲法」は日本国憲法が世界初であろうとする記述が見られ、この時点において芦田が、9条2項を全面的な戦力放棄を規定したものと捉えていたことは明らかであるように思われる。

それでは、芦田はいつの時点で自らの主張を転換させたのか。この問題については、上丸洋一・朝日新聞取材班『新聞と憲法9条』 (朝日新聞出版、2016年)が取り扱っている。

新聞と憲法9条

新聞と憲法9条

 

その詳細については各自において確認されたいが、同書は、芦田自身の新聞や雑誌への寄稿等を検証し、芦田がその主張を転換させた時期を昭和26年1月であると特定する。言うまでもないことであるが、この約半年前、昭和25年6月には朝鮮戦争がはじまり、同年8月には日本に警察予備隊が新設されている。このような日本を取り巻く政治情勢の変化が、必然的に「戦力」を求める政治的な動機を生み出すものであることは言うまでもない。

芦田の主張転換がこのような時期になされたということも、nogawamさんの指摘をふまえるならば、十分に記憶されねばならないだろう。

 

以上、nogawamさんの記事を読んで思ったところを簡単に記した。nogawamさんに明快な視点を与えていただき、管見が多少は広がったように思う。ありがとうございます。

*1:憲法9条2項に「前項の目的を達するため」との文言を加えた芦田修正によって、自衛のための戦力保持は憲法上許されることとなったとする主張。詳細は先日の記事を参照されたい。

*2:引用者において一部文章を省略した。

*3:私は「歴史修正主義」という語を安易に用いることに躊躇を覚えるため、あくまでも「ある意味で」であることを強調しておきたい。

*4:http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1045378

*5:昭和27年3月18日両院法規委員会での発言。