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「テロ等準備罪」という印象操作

はじめに

いわゆる共謀罪について、政府は「共謀罪」との呼称を用いることをまったくの誤りであるとして強く批判する一方、「テロ等準備罪」との呼称を用いて盛んにテロ対策の側面を強調している。

本ブログでは、すでに「共謀罪」との呼称が誤りとは言えないことについてすでに論じており、あえて「テロ等準備罪」との呼称の妥当性についてまで述べるつもりは必ずしもなかったのだが、金田勝年法務大臣から看過できない発言があったため、簡単にだけふれておくことにする。

TOC条約 

政府は、TOC条約を締結し、国際社会と協調してテロ等の組織犯罪とたたかうために、今回の法案*1共謀罪を新設する必要があるのだと説明する*2

しかし、よく知られているように、同条約はそもそもマネーロンダリングや人身売買を防止するための条約として成立したものである。テロリズムを同条約の対象とすることについては、日本を含む多くの国が反対し、結果として同条約にはテロに言及する規定は設けられていない*3

当初法案に「テロ」の文言なし

これもまたよく知られているところだが、平成29年2月28日に報じられた今回の法案の原案に、「テロ」との文言は一切入っていなかった*4。政府は、報道等からいっせいにこの点を指摘され、原案において「組織的犯罪集団」としていたところを「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」とする急ごしらえの修正を行ったにすぎない。

しかも、その後の審議*5において、「テロリズム集団その他の」との文言の有無でなんら解釈上の変更を生じないことは、法務大臣自身の口から明言されている。同審議における仁比と金田とのやりとりを引用する*6

国務大臣金田勝年君) 改正後の組織的犯罪処罰法第六条の二の、ただいま御指摘いただきましたテロリズム集団その他の文言は、この部分の文言は組織的犯罪集団の例示であります。(略)したがって、テロリズム集団その他のがある場合とない場合とで犯罪の成立範囲が異なることはないものと考えております。

○仁比聡平君 いや、つまり、あってもなくても意味は変わらないと、そういうことですね。

国務大臣金田勝年君) 変わらないと思います。 

あってもなくても変わらない十文字あまりをちょいちょいと付け足して、これでテロ対策でございと差し出したというわけだ。面の皮の厚いことである。

テロに関係する犯罪は4割程度 

共謀罪の対象となる277もの犯罪のうち、いったいどの程度がテロに関係するものなのか。この点にかかる金田の発言のあまりの酷さが、あえて本記事を作成することとした理由である。平成29年4月17日衆議院決算行政監視委員会における山尾志桜里と金田とのやりとりを引用する*7。 

○山尾 277あるいはそれ以上と思われる今回の対象犯罪のうち、テロ対策の犯罪はいくつあるんですか。

○金田 277ございますが、それが、テロ対策として、直接にあるいは資金源として、あるいはそういう考え方で、関わりがあるかという風におうかがいをいただければ、関わりがほとんどあると、このように申し上げるべきであると、このように考えております。

まことに驚くべき発言だ。

「関わりがほとんどある」 

金田は確かにこう言った。共謀罪の対象犯罪277のほとんどはテロ対策と関わりがあると、金田は臆面もなく言い放ったのである。

関わりがある? あるのかもしれない。ただしそれは、風が吹けば桶屋がもうかる、という程度の「関わり」だ。審議ではきのこ採りの例などが挙げられていたが、一度私心を去って対象犯罪のリストを眺めてもらいたい。これらのほとんどが、健全な社会常識として想定されるような意味で「テロ対策と関わりがある」と、本当に思うのか。あまりにも人を馬鹿にした、ふざけた発言である。

なお報道では、共謀罪の対象犯罪のうちテロ実行に関するものは4割程度とされている*8

おわりに 

以上のとおり、「テロ等準備罪」との呼称は、必ずしもその実態を適切にあらわすものであるとは言いがたい。以前の記事で述べたとおり、今回の法案が新設する罪は、従前の審議との連続性もあり、内容的にも「共謀罪」と呼んでなんら差し支えのないものである。そうであるにもかかわらず、従前用いていた「共謀罪」との呼称をまったくの誤りであると排撃し、必ずしも実態を適切にあらわしているとは言えない「テロ等準備罪」との呼称をあえて用いることは、印象操作との謗りを免れないのではないだろうか。

*1:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(第193回国会閣法第64号)。

*2:平成29年1月30日参議院予算委員会における金田の発言など。

*3:平成29年3月22日参議院法務委員会における仁比聡平の発言など。

*4:http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017022802000125.html

*5:平成29年3月22日参議院法務委員会。

*6:引用者において一部省略した。

*7:引用者において一部省略した。

*8:http://www.jiji.com/jc/article?k=2017022700806&g=pol