共謀罪に関する世論調査の結果が分かれていることについて
共謀罪の賛否について報道各社が実施した世論調査の結果が分かれていることを伝える朝日新聞の記事*1を読んだ。記事によれば、日経新聞・テレビ東京の調査では賛成58パーセント、反対23パーセントであるのに対し、朝日新聞の調査では賛成35パーセント、反対33パーセントとなっており、大きな開きがある。
本稿では、上記記事に加え、朝日新聞の平成29年2月に実施した世論調査の質問文等を紹介する記事*2および毎日新聞の平成29年4月に実施した世論調査等にかかる2記事*3、そして日経世論調査アーカイブ*4を参照して、質問文と賛否の割合との関係をまとめた。質問文について着目したのは、
- 「テロ等準備罪」の文言が用いられているか
- 「従前の共謀罪に比して要件を厳格化した」との説明がなされているか
- 捜査への懸念に言及されているか
の3点である。なお、本来であればすべての世論調査について質問文を直接確認するのが望ましいのはもちろんであるが、私にそこまでの余裕がないため、質問文の内容は上記の記事等をもとに判断し、不明な場合は「?」とした。
「テロ等準備罪」の文言 | 「要件厳格化」との説明 | 捜査への懸念に言及 | 賛成:反対(賛否を表明した者に占める賛成者の割合) | ||
---|---|---|---|---|---|
1 | ○ | -(○) | × | 58:23(71.6%) | |
2 |
読売新聞(4月14~16日) |
○ | ○ | × | 58:25(69.9%) |
3 |
産経新聞・FNN(4月15~16日) |
○ | ○ | ○ | 57.2:32.9(63.5%) |
4 |
朝日新聞(2月18~19日) |
○ | × | × | 44:25(63.8%) |
5 |
朝日新聞(4月15~16日) |
× | × | × | 35:33(51.5%) |
6 |
毎日新聞(3月) |
× | ×(?) | ○ | 30:41(42.6%) |
7 |
毎日新聞(4月22~23日) |
○ | × | × |
49:30(62.0%) |
8 |
共同通信(4月) |
× | ×(?) | ○ |
41.6:39.4(51.4%) |
9 |
NHK(4月) |
○ | ×(?) | ? |
45:24(65.2%) |
共謀罪をテロ対策であるとするアピールや要件を厳格化したとの説明が、賛否に大きな影響を与えることを如実に示す結果となった。「テロ等準備罪」との文言を用いたうえで従前の共謀罪よりも要件を厳格化していると説明した場合、賛否を表明した者に占める賛成者の割合はなんと約7割という驚くべき数字である。
しかし、過去記事においてすでに述べているとおり、「テロ等準備罪」との呼称は必ずしもその実態を適切に反映したものではなく、共謀罪を「テロ等準備罪」と呼んでテロ対策との側面を過度にアピールすることには疑問がある。また、「要件の厳格化」が処罰のために準備行為を要求したことをいうものであるとすれば、準備行為は「ATMから現金を引き下ろす」等のなんら危険性を有しないものであるうえ処罰のためにこれを要求することは従前の共謀罪審議でも検討されており、要件を厳格化したと言えるかどうかもきわめて疑わしい。こうした実態にそぐわない印象が広められることによって議論が特定の方向へと誘導されることのないよう、いっそうの努力が必要だろう。私自身も、微力ながら力を尽くしていきたい。
日経新聞・テレビ東京の質問文について
ところで、日経世論調査の質問文は以下のようなものである。
政府は、殺人などの重大犯罪の計画に関与しただけで処罰の対象となる「共謀罪」の内容を見直し、犯罪を目的にする集団のみを対象にした「テロ等準備罪」を設ける組織犯罪処罰法改正案を今国会に提出しました。あなたはこの法案に賛成ですか、反対ですか。
この質問文からは、「テロ等準備罪」と喧伝される今回の共謀罪が、犯罪を目的とする集団のみに対象を限定することによって、従前の共謀罪よりも要件を厳格化したものであるかのような印象を受ける。私がまとめた上記の表で、日経新聞・テレビ東京の世論調査の、「要件厳格化」との説明があったか否かについての項目を、括弧つきながら○としたのはそのためである。
しかし、この点において今回の共謀罪は従前よりも要件を厳格化するものではまったくない。従来の共謀罪も、今回の共謀罪も、適用対象に違いはない。このことは、平成29年4月19日衆議院法務委員会において、法務省の林真琴刑事局長が明言している*5。今回の共謀罪が仮に要件を厳格化したものだと言いうるとしても、それは処罰のために準備行為を要求したことなどを理由とするのであって、「適用対象の限定」は理由とならない。日経世論調査の質問文は、ミスリーディングで不適切なものである。
*1:http://www.asahi.com/articles/ASK4P3HFYK4PUZPS001.html
*2:http://www.asahi.com/articles/ASK4P3HFYK4PUZPS001.html
*3:https://mainichi.jp/articles/20170424/ddm/002/010/117000c,
https://mainichi.jp/articles/20170424/ddm/007/010/154000c
*4:https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/cabinet-approval-rating/
*5:http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017041901001231.html