国民主権とリベラル(3)

ロールズの提唱した正義の二原理と、それに根拠を与えた「無知のヴェール」という概念装置について説明してきました

こうしたロールズの理論の背後にあるのは、「何人も、偶然与えられたいかなる有利な条件についてであれ、これを排他的に保持する正当な根拠を有しない」という考え方です。人種、性別、能力、家柄、容姿。たまたま生まれ持ったにすぎないこうした条件を利用して不当に利益を図ることが許されるべきではなく、だからこそこれらは最も不遇な立場にある人の利益を最大化するような形で利用されねばならない(格差原理)。このような考え方は、ロールズのみならず多くのリベラルが支持するところでもあります。

しかしこうした考え方に照らしたとき、国民主権という考え方や国民国家という枠組みははたしてリベラルの支持に値するものなのでしょうか。

ここで「国民主権」という場合の「主権」の意味について説明しておきましょう。一般に「主権」という語は3つの異なる意味で用いられます。

  1. 国家権力そのもの(国家の統治権
  2. 国家権力の最高独立性
  3. 国政についての最高決定権 

この3つです。「国民主権」という場合の「主権」は3つ目の意味であり、「国民主権」とは国政についての最高決定権が国民(のみ)にある、ということです。(続く)