裁判員裁判トリビア

寡聞にして存じあげなかったのですが、安倍を内乱予備罪で告発なんていう動きがあったんですね*1

告発理由が少し気になったので軽く検索してみましたが、「アエラ・ドット」の記事*2によると、以下の3つの「罪状」があるそうです(もっとも、これは1年前の記事なので、その後追加・変更等があるかもしれませんが)。

……うーん。これらは違憲ないし違法の問題を生じうるとは思いますが……。内乱予備とは内乱の予備をすることで*3、 内乱とは「国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動」をすることなのでね……*4。率直に言って構成要件にかすりもしてないと思います。

まあ、告発者もおそらく本気でこのような犯罪が成立すると思っているわけではなくて、告発を通じて問題提起を行い、国民的な動きを巻き起こしたいということなのでしょう。そうであるとすれば、上記のような「罪状」に問題があること自体はたしかなので、ある程度理解できる動きではあります。私自身は、さすがにちょっとのれないですが。

 

ところで内乱罪といえば、私、裁判員裁判とのからみで最近ちょっとした雑学的知識を得たんですよね。こんな犯罪が問題となることなんてほとんどないとは言え、日ごろ条文を丁寧に読んでいれば気づけるはずのことであり、「今ごろかよ」とツッコまれれば恥じ入るばかりなのですが、せっかくなので紹介しておきます。

みなさまご存じのとおり、裁判員裁判の対象事件については、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」といいます)2条1項に定めがあります。引用します。

第二条 地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条又は第三条の二の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。

一 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件

二 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。) 

ご覧いただいたとおり、1号で死刑または無期の懲役・禁錮にあたる罪にかかる事件が挙げられています。内乱罪の首謀者については法定刑が死刑または無期禁錮ですから*5、なんとなーく読み流していると、内乱罪にかかる事件は裁判員裁判対象事件なのかな、なんて思ってしまいませんか。

でも、その柱書に「裁判所法第二十六条の規定にかかわらず」とあるとおり、裁判員法2条1項はあくまでも裁判所法26条の特則であり、地方裁判所の扱う事件における裁判体の構成について定めたものなんですよね。

そして、もう見えてきたと思いますが、内乱罪については何か特別なことがありましたよね。そう、裁判所法16条4号。内乱罪にかかる訴訟の第一審は、高等裁判所なのです。せっかくなので、地方裁判所裁判権を有する事項にかかる同法24条と合わせて引用しておきましょう。

第十六条(裁判権) 高等裁判所は、左の事項について裁判権を有する。

一~三 (略)

四 刑法第七十七条乃至第七十九条の罪に係る訴訟の第一審 

第二十四条(裁判権) 地方裁判所は、次の事項について裁判権を有する。

一 (略)

二 第十六条第四号の罪及び罰金以下の刑に当たる罪以外の罪に係る訴訟の第一審

三・四 (略) 

というわけで、内乱罪にかかる事件は、地方裁判所が取り扱うものではなく、また裁判員法には高等裁判所の扱う事件における裁判体の構成*6にかかる特則はなんら設けられていませんから、裁判員裁判の対象とはならないのです。

*1:https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/262358

*2:https://dot.asahi.com/aera/2018090600083.html

*3:刑法78条。

*4:刑法77条1項柱書。

*5:刑法77条1項1号。

*6:裁判所法18条に定めがあります。