関西テレビの放送倫理違反について

はじめに

BPOが、女性作家の差別的な発言を編集でカットすることなく報道した関西テレビの番組について、放送倫理違反があったと認定する意見を公表した旨の報道に接しました。

韓国人への差別的発言は「放送倫理違反」 BPOが意見:朝日新聞デジタル

本件については、問題とされた「手首切るブスみたいなもん」との発言に関し、韓国人でなく韓国という国に対するものであったとする主張があるようです。当該発言は単に国の政治姿勢を批判しただけだ(からセーフだ)というわけです。そこで本記事では、BPO放送倫理検証委員会の「関西テレビ胸いっぱいサミット!』 収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」*1(以下、「BPO意見」といいます)に基づいて発言に至る経緯等を確認することを通じて、かかる主張の当否を検討したいと思います。

発言に至る経緯等

「手首切るブスみたいなもん」という発言は、当該番組の2019年4月6日放送回と同年5月18日放送回の2回にわたって行われています。このうち、特に5月18日放送回のやりとりが分かりやすいので、BPO意見の認定に基づいて紹介します。

5月18日放送回では、韓国国会議長が改元に際し新天皇に送った祝電が槍玉にあげられました。祝電の中には天皇訪韓を期待する旨の記載があったのですが、このことがかつて同議長が慰安婦問題の解決には天皇の謝罪が必要だと述べたことと結びつけて問題とされたのです。曰く、「文面が思い上がっている」「祝電は送り返すだけでなく、悲惨な目にあわせないと駄目だ」云々。

本題から外れますが、当然のことながら、その祝電は、新元号である「令和」が意味する美しい調和の実現や韓日関係の発展等を願う内容で、なんら攻撃的なものではありませんでした(友好の象徴として天皇訪韓を期待することも、少なくとも攻撃的であると評価されるようなものとは全く言えないでしょう*2)。また同議長は上皇に対しても「韓国に対し、痛みに寄り添い和解と協力を強調されてこられたことに感謝する」旨の電報を送ったということです*3。こうして示された祝意に対して、感謝するどころか「文面が思い上がっている」などと非難を浴びせ、「祝電は送り返すだけでなく、悲惨な目にあわせないと駄目だ」とまで述べるのは、あまりにも品位を欠く行為だと思います。

ともあれ、このような話の流れを受けて、番組MCが女性作家に「Xさん、ご主人が韓国の方ということで韓国人気質というのはよく分かっていると」と話を振ります。これに対して女性作家が、「いやー、こないだも言いましたけど、とにかく手首切るブスみたいなもんなんですよ。手首切るブスというふうに考えておけば、だいたい片づくんですよ」と述べた。これが発言に至る経緯です。なお、参考までにBPO意見の該当箇所を引用しておきます。

VTRは、「慰安婦問題の解決には天皇(注:現在の上皇)の謝罪が必要だ」「その方は戦争犯罪の主犯の息子ではないか」などと主張して上皇への謝罪を要求していた文喜相(ムン・ヒサン)韓国国会議長が、改元の際、謝罪要求から一転、日韓関係の発展と天皇陛下訪韓に期待を示す祝電を送ったことなどを説明する。

これに対して、出演者の女性タレントが「文面が思い上がっている。韓国に送り返せばいい」と“クレーム”を述べてスタジオトークが始まる。 この女性タレントは「戦争犯罪の主犯の息子と呼んでね、(元慰安婦の)おばあさんの手をとって謝罪すれば慰安婦問題は解決されるなんて言ってね」と口火を切る。男性タレントも、天皇に戦争責任がないというのが日本の立場であり、天皇に謝罪しろというのは内政干渉である、祝電は送り返すだけでなく、悲惨(ヒサン)な目にあわせないと駄目だ、などと応じる。

ここで、MCがX氏に「Xさん、ご主人が韓国の方ということで韓国人気質というのはよく分かっていると」と話を振る。これに対してX氏は、動作を交えながら、「いやー、こないだも言いましたけど、とにかく手首切るブスみたいなもんなんですよ。手首切るブスというふうに考えておけば、だいたい片づくんですよ」と語る。 

韓国か韓国人か

ここで重要なのは、問題の発言が番組MCの「ご主人が韓国の方ということで韓国人気質というのはよく分かっていると」との「フリ」 を受けてなされたものだったということです。発言が国の政策に対してなされたものであるならば、「ご主人」という個人は何の関係もないはずです。さらに番組MCは明確に「韓国人気質」というものに言及して話を振っています。これで「韓国人」でなく「韓国」についての話をするのは、やりとりとして明らかにチグハグであるというべきでしょう。BPO意見も、以下のように述べて問題の発言は韓国(の外交姿勢)に対してなされたものにすぎないとする主張を退けています。

発言は、韓国のことを「手首切るブスみたいなもん」というものであり、「手首切る」と「ブス」という2つの言葉をもって例える内容であった。そして、その発言が「外交姿勢の擬人化」にとどまらず、広く韓国籍を有する人々などを侮辱する表現であって、公共性の高いテレビ番組では放送されるべきではなかった(略)。 

おわりに

結局、問題の発言が韓国人でなく韓国という国に対するものであったなどとする主張は、明らかに無理のある、単なる言い訳にすぎないと見てよいと思います。関西テレビには、BPOの意見を真摯に受け止め、改善に努めてもらいたいところです。

*1:2020年1月24日放送倫理検証委員会決定第32号。

*2:人によっては不躾だと感じるくらいのことはあるのかもしれませんが(なお、私自身はそのようには感じません)。

*3:https://www.sankei.com/world/news/190501/wor1905010017-n1.html