共産党側は完全「セーフ」でしょうに……

京都新聞の意見広告(以下、「本件広告」といいます)をめぐっては、一部の人たちのなかなか興味深い動きを観察することができます。

いちおう知らない方のために説明しておくと、事の発端は京都新聞に「共産党の市長は『No』」などという内容の本件広告が出されたことでした。このような下品な攻撃に対して当然共産党側は反発します。ところが、なぜか非難が集まったのは攻撃をした側ではなく共産党の側でした。反発の際、本件広告を「ヘイト広告」と評したことが問題視されたのです(ひたすら「被害者」の落ち度を言い立てるお定まりのパターンであって、「なぜか」などと不思議がるには及ばないという見方もあるかもしれません)。とりあえず、まとめとしてこのような記事があります。

今後「政党への批判(〇〇党市長はNO)」も『ヘイト』と認定されるかもしれない…(日本共産党のえらい人の見解) - INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

本件広告について、 共産党の志位や小池などが「ヘイト広告」と評したことは正しいのか、というような内容です。

この点については先日の記事ですでに私の意見を述べたのですが、その記事はすでに非公開にしてしまったので、改めて書いておきます。

志位らがどのような趣旨で「ヘイト広告」という表現を用いているのか現段階では分かりませんが、本件広告は少なくとも「ヘイトスピーチ」という意味での「ヘイト」にはあたらないでしょう。個人的な感覚ですが、共産党支持者からもこうした表現への賛同はあまり集まらないと思います(私自身、共産党に対しては比較的好意的な立場ですが、賛同できません)。少女像の問題でいきり立っていた河村某の例などとは異なり、共産党はむきだしの敵意を直接的にぶつけられているわけでお気の毒だとは思いますが、ここは軌道修正した方がかえって支持者の理解を得られる気がします(別の切り口からの批判はいくらでも可能でしょう)。 

私の意見はこのようなものですから、本件広告に対する志位らの評価に疑義を呈すること自体は理解できないでもありません。

ところで、 本件広告についてはこの後さらに別の問題が持ち上がりました。顔写真および氏名等の「無断」使用問題です。

本件広告には、著名人の顔写真および氏名等が掲載されており、あたかも「共産党の市長は『No』」とする広告の意見に賛同するかのような印象を与えるものとなっていました。ところが、顔写真および氏名等が掲載された一人である千住博が、「特定の党を排するような活動には反対である」「本件広告への(顔写真および氏名等の)掲載は千住の許可なく無断でなされたものであり、遺憾である」との趣旨の声明を出したのです*1*2。その後、他の著名人からも本件広告について「事前の説明も了承もなかった」などとするコメントが相次ぎ、顔写真および氏名等を掲載された複数人から遺憾だとする意見が出される事態に発展しています*3*4

なお、広告を出した「未来の京都をつくる会」の吉井章事務長(自民党府連幹事長)によれば、「あらゆる広告物に推薦人の名前と写真を使用することは事前に了承を得ている。個別の広告物についての掲載確認は以前からしていない」とのことです*5*6。推薦の趣旨がいかなるものであるのか、またその趣旨からかけ離れた使用についてまで許可するような合意があったと言えるのかといったこと等については、疑義もありうると思いますが、いずれにせよそれらは当事者間の具体的なやりとりや交わされた書面等を確認しなければ分からないことであり、結論として本件広告が違法とまでは言えない可能性は十分あるでしょう。

ところが、一部の人たちはそれをもって「全く問題ない」につなげてしまうんですよね。「全く違法性はない。文句があるなら争えば? どうせ負けるけど(笑)」みたいな*7。それどころか、「当初は推薦人であることを言わなかった」「隠していたんだ」などと、全くお門違いな逆ギレまがいの反応を示す手合いまで出てくる始末。ちょっともう手に負えません。

冷静になって考えればすぐに分かることですが、違法かどうかという基準で判断するなら、本件広告を「ヘイト広告」と評した共産党側の発言は完全に適法であり、「セーフ」のはずです。また、なんら個人の権利や利益を侵害するようなものでもない。一方で、本件広告はそもそもその適法性自体に疑義がないとは言い切れません。また仮に適法であるとしても、少なくとも実際の本人の意見とは反する意見を持っていると受けとられうるような方法で顔写真および氏名等を使用していることは間違いないのですから、個人の権利や利益を侵害しうる側面があることは否定しがたく、道義的責任は免れないでしょう。だからこそ、広告を出した「未来の京都をつくる会」会長の立石義雄も「本人の了承を事前に得ていないのであれば申し訳ない。会長としておわびをしないといけないと思う」と謝罪をしているのだと思います*8。……にもかかわらず、前者は嬉々として叩き続け、後者は適法だから問題ないと擁護する人たち。結論ありきであまりにも浅ましいと評するほかありません。

以上、本件広告をめぐる一部の人たちの興味深い動きを紹介しました。いや本当に、もうちょっとフェアにいきましょうよ。

*1:https://buzzap.jp/news/20200128-kyoto-kadokawa-anti-jcp-ad/

*2:https://mainichi.jp/articles/20200128/k00/00m/010/219000c

*3:前掲注2も参照。

*4:https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/146571

*5:前掲注4。

*6:なお、推薦人に名を連ねていること自体は千住も認めています。

*7:ちなみに、私個人は違法性がないと断じてしまうのもどうかと考えていますが。

*8:前掲注4。