盗撮などで有罪の犯人が「それでも映像は捨てない」と言い張ったら

以前、id:gryphonさんの以下の記事を読んだのだった。

盗撮などで有罪の犯人が「それでも映像は捨てない」と言い張った時、どうなるの? - 見えない道場本舗

記事の内容は、表題どおり「盗撮などで有罪の犯人が映像を捨てないと言い張った場合にどうなるのか」について教えを請うもの。強姦等事件の被告人側弁護士が、被害者とされる女性の弁護士*1に対し、「当時の様子を撮影したビデオがあるが、告訴を取り下げるならば処分する」という内容の交渉を行ったというニュースから連想して書かれたもののようだ。

まずはじめに断っておかなければならないが、私はgryphonさんの連想のもととなったニュースに対して、何らかの評価をするものではない。これは弁護活動の限界に関わるきわめてデリケートな問題であって、報じられている程度の情報で論じられるべきものではないと、私は考えている。gryphonさんの記事を読んでからしばらく時間をおいて本記事を公開するのも、上記ニュースに対する感情的なコメントを誘発しては良くないとの配慮による部分が大きい。読者の方には、その点を十分に留意していただくようお願いする。

 

さて表題のような場合、被害者としては、人格権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求として、犯人に対して映像の廃棄を求めうるものと考えられる。参考裁判例として、高松高等裁判所平成17年12月8日判決(判時1939号36頁)を挙げておく。

上記裁判例を、廃棄請求に関する限りで説明すると、大要以下のような事案である。なお本記事では、判例時報に掲載されている判決文中の「一審原告」を「被害者」、「被告乙山」を「加害者」と表記する。判決を引用する場合にも、「一審原告」を「被害者」、「被告乙山」を「加害者」に置き換える。

  1. 被害者は、出会い系サイトで加害者と知り合い、いったんは会うことを約束したものの、後にこれを断った。
  2. ところが、加害者は興信所を利用して被害者の氏名・住所を突き止め、被害者に、「先日会ってもらえなかったために会社に損害が出た」 「被害者の名前や住所、家族のことを知っている」といった内容の電話をかけ、面会を実現させた。
  3. 加害者は、被害者に対し、面会の約束を破られたことにより仕事上の損害を被ったので50万円を支払うよう要求するなどし、別なもので支払うなら金額を下げると言って被害者をホテルに連れ込んだ。
  4. 加害者は、ホテルで被害者の裸体や被害者に口淫させる様子を写真に撮り、被害者と入浴した後性的交渉を持った。
  5. 加害者は、上記写真のフィルムの所有権放棄に同意しない。

高松高裁は、事項4等の加害者の一連の行為について、「強姦罪の構成要件としての暴行又は脅迫の事実があったと断定するのがいささか困難なだけであって、実質的には被害者を抗拒不能の状態にした上で姦淫したに等しい」とし*2、また被害者は加害者が上記写真のフィルムを所有し所持し続けることを明確に拒否していることを指摘したうえで、以下のように述べる。

 そして、以上のような内容の本件フィルムは、存在すること自体が被害者のプライバシーを侵害し、又は侵害するおそれのあることが明らかであると認められるから、加害者が本件フィルムの所有権を有していると否とにかかわらず、加害者が本件フィルムを所持する可能性のある限り(徳島地方検察庁において、加害者に対して本件フィルムを還付する旨の処分がなされる可能性のある限り)、被害者のプライバシーを侵害するおそれがあるというべきである。また、本件フィルムが加害者によって第三者に公開されると、被害者のプライバシーが著しく侵害され、これによって被害者の被る損害の程度は、余りにも大きいものがあるということができる。

 したがって、被害者は、加害者に対し、人格権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求として、少なくとも本件フィルムの廃棄を求めることができると認めるのが相当である。

ここでは、上記写真のフィルムはその存在自体が、少なくとも被害者のプライバシーを侵害するおそれのあることが明白であるとされ、結論として、人格権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求として上記写真のフィルムの廃棄を求めることができるとされている。

 

以上、映像の廃棄を求めるための法律構成と参考裁判例を示し、参考裁判例について簡単にその内容を紹介した。詳細は各自判決文にあたられたい。

*1:http://mainichi.jp/select/news/20150226k0000m040137000c.html

*2:したがって、上記写真が被害者の同意のもとに撮影されたものとは到底認められないとしている。