渋谷暴動と時効

平成28年11月10日追記:元記事のリンクが切れてしまったようなので、元記事のはてなブックマークページをはっておく。

先日、以下の記事を読んだ。

はてなブックマーク - 「渋谷暴動」で警察官殺害 手配の過激派の男に懸賞金 | NHKニュース

昭和46年(1971年)に渋谷で警察官を殺害したとしてA氏が指名手配されている、いわゆる「渋谷暴動」について、警察庁が、情報提供者に公費から懸賞金を支払う制度の対象にすることを決めたという。

厚かましい話だと思う。

事件当時の規定に照らせば、本件の公訴時効は15年。にもかかわらず、未だに本件の捜査が継続されているのは、刑事訴訟法254条2項によるものである。

第二百五十四条 時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。

○2 共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。

時効は公訴の提起によってその進行を停止する。そして、共犯の一人に対する公訴の提起は、他の共犯との関係でも時効の進行を停止させ、当該事件についてした裁判が確定するまで進行しない。

本件では、共犯とされる人物B氏などについて公訴が提起されており、時効の進行は停止していた、というわけだ。

しかし、B氏の公判は、昭和56年(1981年) に、同人の精神疾患によって手続停止となっている。そして、どうやら平成28年(2016年)現在においてもこの件についての確定裁判はないようである*1

「停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。」

殺人罪などの公訴時効は平成22年に廃止されているが、仮に廃止されていなかったとしても、共犯たるB氏について公訴が提起され、その裁判が未確定である以上、A氏の時効は完成していないということになる。

 

そもそも刑事訴訟法254条2項は、共犯者間の不公平を避けるための規定である*2。(たとえば精神疾患のような)他の共犯者には如何ともしがたい個人的な事情によって、共犯者の一人の公判が通常と大きく異なる経過をたどったときに、そのことに起因する不利益を他の共犯者にも負わせる――。それはもはや、共犯者間の公平を図るという法の要請をはるかに逸脱し、他の共犯者に不当な負担を強いるものと言うべきであろう。

そうであるならば、共犯とされる者の公判手続停止を奇貨として何十年にもわたって捜査を継続し、あまつさえ懸賞金までかける捜査機関の態度はあまりにも 厚顔であるように、私には思えてならない。しかるべき法整備が望まれるところである。

なお、共犯とされるB氏に関して、精神疾患を理由として公判手続を停止したまま何十年もの長期にわたって刑事被告人の地位にとどめおくことも、当然ながらきわめて重大な問題をはらんでいる。これについては、稿を改めて論ずる。

*1:なお、少なくとも平成22年(2010年)1月時点で確定裁判がないことは間違いない。

*2:松尾浩也監修『条解 刑事訴訟法』(弘文堂、第4版、2009年)505頁。