差別をどう判断するか

先日の記事女性専用車両を設けることが差別でないとする理由について簡単に説明したところ、多くの反応をいただいた。たくさんのご意見をいただけたことはありがたいのだが、一方で必ずしも記事の趣旨を理解されていないように思われるコメントも散見されたので、今回はその点に若干関連する話をしておきたい。

誤解されているように見えるコメントで多いのは、「男性を排除するのは不当だろう」という類のもののように思われた。こうしたコメントをされる方は、あるいは男性を「排除」するものであるという点が無視されているように感じているのかもしれないが、もちろんそうではない。発端の匿名記事が問題にしているのは女性専用車両の設置であるところ、男性の「排除」なるものは、女性専用車両設置の当否を検討する際の考慮要素として組み込まれることになるのである。上記のような誤解が生じているとすれば、それは差別問題を判断する際の枠組みが理解されていないことも一因ではないかと思われるので、以下、差別問題を判断する際の大まかな枠組みについて説明する。

差別の禁止について規定した憲法14条1項*1を題材に考えてみよう。裁判において憲法14条1項に反するか否かが問題とされるとき、その判断は、まず「別異の取扱いがあるか否か」、そしてあるとしたならば「それが合理的な根拠に基づくものか否か」という流れで行われることとなる。かかる判断において「別異の取扱いはあ」ったとして、「それが合理的な根拠に基づく」とされた場合その別異の取扱いは憲法14条1項に反しないとして肯定されるし、「合理的な根拠に基づかない」とされた場合憲法14条1項に反するとして否定される。これが判断の大枠である。こうした別異取扱いにかかる判断の大枠は裁判に限ったものではなく、一定の教育を受けた方であれば当然の前提としていることが多い。私も前回の記事においてつい説明を省いてしまったが、この機に覚えておいてほしい。

さて、ここにいう「合理的な根拠に基づくものか否か」を判断する基準(これを「違憲審査基準」という。)は問題によって変わりうるものであるのだが、それはともかくとして、かかる違憲審査基準に適合するか否かを検討する過程で、別異取扱いによる不利益の程度や、代替手段の有無といったことは考慮されるのである。

女性専用車両設置の問題において合憲性の審査をストレートに行えるわけではないので以下の議論はやや法学的な正確さを欠くのだが*2、ここでの目的はあくまでも男性の「排除」なるものがどのような形で考慮されるのか、についてイメージを持ってもらうことであるから、先述した判断の大枠に女性専用車両設置の問題をそのままあてはめて考えてみる。なお違憲審査基準としては、仮に、「別異取扱いの目的が重要であり、目的と(それを達成するための)手段との間に実質的関連性があること」を求める、「厳格な合理性の基準」と呼ばれるものを採用することとしよう。

女性専用車両が設置されることによって、男性はその車両には乗り込みにくくなるかもしれない。これはまあ別異の取扱いをするものと言ってよいとしよう。では、この取扱いは「厳格な合理性の基準」に適合するものだろうか。女性専用車両設置の目的は、痴漢被害にあう危険のある女性に安全安心な通勤環境を提供するといったところだろう。かかる目的は、重要なものと言えよう。以上を前提として、さて、この目的と、女性専用車両設置という手段との間に実質的関連性はあるだろうか。

ここで、女性専用車両設置よりも容易かつ確実に目的を達成する手段があるというのであれば、女性専用車両の設置は目的を達成する手段として実質的関連性を欠くことになろう。また、女性専用車両が1両のみ設けられるというのであれば男性に対する負担は必ずしも重くはないとして実質的関連性を肯定する方向に働くのではないかと思われるし、逆に全車両を女性専用車両とするということになれば、男性に過大な負担を押しつけるものとして実質的関連性は否定されよう。その他さまざまな事情をも考慮したうえで、女性専用車両設置という手段が目的と実質的な関連性を有するということになれば女性専用車両の設置は正当なものとして肯定されるし、有しないということになれば女性専用車両の設置は不当なものとして否定される。このような形で、男性に与える負担(男性の「排除」)は考慮されているのである。そして念のためにくり返しておけば、女性専用車両を差別ではないとする者のみならず、匿名記事も、男性を「排除」することになっても女性専用車両を設置することに賛成であるとしており、この点で両者に差はない。

以上、差別か否かの判断枠組みについて、きわめて大づかみにではあるが説明してきた。多少はイメージを持ってもらえただろうか。理解の助けになれば幸いである。

*1:「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」

*2:詳細は各自で憲法の基本書等にあたられたい。