君が代不起立での再雇用拒否は何が問題か

君が代斉唱の際に起立等をしなかった都立高校の元教員ら22人の再雇用等拒否にかかる裁判で、19日、最高裁が、1,2審をくつがえし、再雇用等を行わなかったことは裁量の範囲内であると判断したとの報道と、それに対する反応に接した。

君が代不起立で再雇用せず 元教職員が逆転敗訴 最高裁 | NHKニュース

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この問題についてはいずれまとまったものを書くつもりなので今回詳しく論じることはしないが、あまり理解できていない方が多いようなので、本件がどういう問題なのか、ということだけ簡単に説明しておく。

そもそも本件における再任用制度は、その導入にあたり、いわゆる満額年金の支給開始年齢を引き上げる年金制度の改正にあわせて定年後の雇用確保を目的とするものと説明されてきた。やや不正確ではあるが、大雑把に言えば、定年から支給開始年齢までの空白期間を埋めるための制度であったということだ。

このような沿革もあって、本件における再雇用制度等は、定年後の職員の雇用確保や生活安定をも目的としており、きわめて高い採用率を示していた。この点、最高裁判決は「(当時再雇用を)希望する者が原則として全員採用されるという運用が確立していたということはできない」旨をいうのであるが、平成12年度から平成21年度までにおいて再雇用等を新規に希望する者のうちおおむね90%から95%程度以上が採用されていたとの実態からは、再雇用に対する期待がなんらかの形で保護されてよいのではないかとも思えるところである。1,2審はこうした期待の保護を前面に打ち出すものであり、最高裁はそうではなかった。

そして、再雇用制度等において採用の判断に際し一定の裁量が認められるとしても、その判断が多種多様な要素を総合的に考慮したうえで行われるべきことは当然である。仮に、特定の要素を不当に重視したり、考慮するべき要素を考慮しなかったり、といった恣意的な判断がなされたとしたならば、それは裁量権の範囲を逸脱しまたはこれを濫用したものとなる可能性がある。1,2審は不起立等の職務命令違反のみをもって*1不採用とすることは裁量権の範囲を逸脱しまたはこれを濫用するものであるとし、最高裁は広範な裁量を認めて裁量の範囲内であるとした。

なおこの点に関連して参考までに述べておくと、元教員らが選考申込みをした3年間において、不起立等をした者は100%不合格等となり、その他の者については申し込みさえすれば98%超の割合で採用されていたようだ。また、 裁判において認定されているとおり、元教員らの不起立等は消極的な態様にとどまり、式の進行を阻害するようなものではなかった。このような不起立等によって戒告処分とされたにとどまる者が不採用とされる一方で、その他の者については、減給や、さらには停職といった重い処分を受けていても採用候補者選考に合格し、再雇用職員等に採用されているという。

以上を要するに、本件は、実態として申し込みさえすればほとんどの者が採用される再雇用制度等において、停職処分を受けたような者でさえ採用される中、式典において起立等をしなかったという者だけが、それだけの理由でほとんど狙いうち的に採用を拒否される、そのようなことを裁量の範囲内であるとして許してよいのかどうか、という問題なのだ。1,2審は裁量の範囲を逸脱しまたはこれを濫用するものであり許されないとし、最高裁は裁量の範囲内であって許されるとした。あなたはどう考えるだろうか。

*1:この点にかかる詳細な認定は各自で判決文にあたられたい。