朝鮮学校授業料無償化除外を考えるために

はじめに 

朝鮮学校授業料無償化除外に関するニュースとそれに対する反応に接し、人びとの無理解ぶりが目に余ったため、先日、「そもそも朝鮮学校授業料無償化除外とはなにか」ということについて説明する記事を書きました。

誰でも分かる朝鮮学校授業料無償化除外の基本 - U.G.R.R.

簡単におさらいをしておきましょう。高校授業料無償化の対象となるかどうかは、当該校が「高等学校等」にあたるかどうかによって決します。朝鮮学校のような各種学校の場合は、「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」として「高等学校等」にあたるかどうかが問題となります*1。「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるもの」としては3つの類型が挙げられていますが*2朝鮮学校が該当しうるのは、「文部科学大臣の定める基準・手続に適合するものとして文部科学大臣が指定したもの」(以下、「ハ規定」といいます)の類型のみです。全国の朝鮮学校は、このハ規定に基づく指定を受けて「高等学校等」の要件を充足するべく申請を行いましたが、一律に文部科学大臣の不指定処分を受けました。これが朝鮮学校授業料無償化除外と言われている出来事のあらましだ、というのが前回記事の内容です。

今回はそこから一歩進んで、文部科学大臣が行った上記不指定処分の適法性等を考えるための手がかりとなりそうな視点の1つを紹介し、本件をどのように評価するべきかということについて、少し検討を加えてみようと思います。本記事を単独で読んでも、朝鮮学校授業料無償化除外に関する基礎的な知識さえない大半の方々には理解が難しいでしょうから、上掲の前回記事を読んだうえでご覧いただくことをおすすめします。

なお少し書くのが遅れましたが、本記事でも、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律を「法」、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則を「施行規則」、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程(平成22年11月5日文部科学大臣決定)を「規程」と表記します。 

朝鮮学校授業料無償化除外を考える 

処分の適法性を考える際の視点にはさまざまなものがありますが、やはり基本となるのはその根拠となる法律の検討を通じて考えていくやり方でしょう。周知のとおり、わが国において行政活動は法律に基づいて行われます(法律による行政)。つまり、行政がある処分を行えるということは、なんらかの法律がその処分を行う権限を行政に与えているということなのです。もっとも、法律は行政に与える権限の内容等について、必ずしも明確に定めているわけではありません。そこで、法律が制定されるまでの経過や法律の目的、あるいはその条文の文言等に照らして、法律が行政に対してどの程度の権限を与えているのかを探っていくことが、きわめて重要になります。そのような作業を通じて画定された範囲を超えて権限の行使(処分)がなされているならば、それはもはや裁量を逸脱・濫用するものとして違法であると考えられるからです。

朝鮮学校授業料無償化除外の場合、文部科学省は当初、幅広い人に教育の機会を提供するという理念のもと無償化の対象に朝鮮学校の生徒も含めて予算の概算要求を行っていました*3。また法案の審議過程においても、政府はこの問題にかかる外国人学校の取扱いについて、外交的配慮を排し、教育上の見地から客観的に判断するべきである旨をくり返し表明しています。一例として、平成22年3月12日文部科学委員会における松野頼久内閣官房副長官(当時)の発言を引用します*4

○松野内閣官房副長官 おはようございます。

就学支援金の支給対象について、いわゆる高校実質無償化法案は、日本国内に住む高等学校等の段階の生徒が安心して教育を受けることができるようにするものであります。

このために、外国人学校の取り扱いに関しましても、外交上の配慮などにより判断するべきものではなく、教育上の観点から客観的に判断するべきものであり、(略)

こうした審議を経て成立した法は、その1条で「高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減」「教育の機会均等」を目的として高らかに掲げており、当然のことながら「外交的配慮」にはまったくふれられていません。

条文の文言からも検討を加えてみましょう。すでに述べたとおり、法2条1項5号は「高等学校の課程に類する課程を置くもの」の内実については施行規則(「文部科学省令」)に委任しており、この委任を受けて施行規則1条1項2号において挙げられた3類型のうち朝鮮学校の場合に問題となるハ規定は、その内実について規程(「文部科学大臣の定める基準・手続」)にさらに委任しているのでした。ここで、委任を受けた下位の法令は委任の趣旨を逸脱することができません。したがって、下位の法令は当然「教育の機会均等」といった法1条の掲げる目的に適合するものであることが求められますし、「高等学校の課程に類する課程を置くもの」という法2条1項5号の文言による制約も受けます。つまり、ハ規程に基づく文部科学大臣の(不)指定は、教育上の見地から、客観的な「高等学校の課程に類する課程」を置いているかどうかの判断に基づいて行われなければならず、外交上の配慮に基づいてなされるようなことがあれば違法だということです。

まっとうな法解釈を行えば以上のような結論となることは当然であり、国側もそれが分かっているからこそ、訴訟などにおいては別の、就学支援金が授業料に係る債権に確実に充当されることを求める規程13条に適合すると認めるに至らなかったといった理由等を持ち出しているのでしょう*5。しかし、このような言い分を額面どおりに受け取る人が、はたしてどれだけいるのでしょうか。前回記事でもふれましたが、総選挙の結果自民党が政権に復帰するや否や、新たに就任した下村博文文部科学大臣(当時)は、朝鮮学校を無償化の対象としない旨明言しました。平成24年12月28日の記者会見における下村発言を引用します*6

大臣 まず、無償化に関する朝鮮学校の扱いについて報告をいたします。本日の閣僚懇談会で、私から、朝鮮学校については拉致問題の進展がないこと朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人事、財政にその影響が及んでいること等から、現時点での指定には国民の理解が得られず、不指定の方向で手続を進めたい旨を提案したところ、総理からもその方向でしっかり進めていただきたい旨の御指示がございました。(略) 

ここにおいて下村が、「拉致問題の進展」などという、「高等学校の課程に類する課程」を置いているかどうかの客観的な判断にはおよそ関係のない外交上の配慮を行っていることは明白です。それにもかかわらず、正式な処分の段になってぬけぬけと持ち出してきた別の「処分理由」をそのまま無批判に受けとめてしまってよいのでしょうか。私は非常に問題があると思います(もっとも、国側が後になって持ち出してきた「処分理由」を前提としても、なお不指定は裁量を逸脱・濫用するものとして違法であると解する余地は十分ありますが)。否、私ばかりでなく、朝鮮学校授業料無償化除外をめぐる報道に対する反応を見ていても、拉致がどうのミサイルがどうのと外交上の話題を持ち出して騒いでいる人はきわめて多いという印象です。朝鮮学校授業料無償化除外は外交上の配慮に基づくものであるというのが世間一般の受けとめ方なのではないでしょうか。そしてそうであるならば(=外交上の配慮に基づくものであるならば)、朝鮮学校授業料無償化除外は明らかに違法なのです。

おわりに

以上、朝鮮学校授業料無償化除外の適法性等を考えるための手がかりとなりそうな視点の1つを紹介し、私なりの簡単な考察を試みました。本記事はあくまでも一面からのきわめて簡潔な考察にとどまるものであり、まったく網羅的ではありません。他にも説明したいことはあるのですが、それはまた機会があればということにしようと思います。 

*1:法2条1項5号参照。

*2:施行規則1条1項2号。

*3:高校実質無償化の概算要求 朝鮮学校など各種学校も対象 : J-CASTニュース

*4:引用者において一部省略し、太字強調を施しました。

*5:前回記事参照。

*6:引用者において一部省略し、太字強調を施しました。