何人殺すと死刑?

先日、ある事件の被告人が被告人質問において「3人殺すと死刑なので2人までにしておこうと思った」旨供述しているとの報道に接しました。

「3人殺すと死刑なので2人までに」 新幹線殺傷、公判で被告 - 毎日新聞

どうも誤解があるようなので、死刑の選択基準等について簡単にお話ししておきたいと思います。

死刑の選択については、いわゆる永山基準というものがよく知られています。これは、最高裁判所昭和58年7月8日判決(刑集37巻6号609頁)において、死刑選択が許される場合を判断する基準として示されたものです。引用します。

死刑制度を存置する現行法制の下では、犯行の罪質、動機、態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性ことに殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき、その罪責が誠に重大であつて、罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には、死刑の選択も許されるものといわなければならない。

ここでは、たしかに「結果の重大性ことに殺害された被害者の数」として被害者数が考慮要素に数えられていますが、それ以外にもさまざまな事情が考慮要素として挙げられていることが分かると思います。実際、強盗殺人など犯行が金目当てのものである場合や被告人に殺人の前科がある場合などには、厳しい判決が言い渡されることが多くなります(死者1名で死刑とされるのはほぼこうした事情があるケースです)。

つまり、「何人殺すと死刑?」という表題に対する回答としては、「殺した人数だけで死刑が選択されるかどうかを判断することはできない」ということになります。

このように説明しても、「そんなのは建前で現実には3人以上殺していないと死刑にはならないんじゃないの 」と思われる方もいるかもしれないので、裁判員裁判を経て死刑が確定した事件とそれぞれの事件における死亡者数との関係を示しておきましょう。なお、以下の表は、特定非営利法人CrimeInfoのウェブサイト『CrimeInfo』*1の「死刑確定者リスト 全リスト」および最高裁判決が出ている場合には当該判決を参照して作成したものです。

死亡者数 0 1 2 3 4 5~
事件数 0 1 12 7 0 3 23

現在までに、裁判員裁判を経て死刑が確定した事件は23件*2。そのうち12件は、事件による死亡者数が2名のものです。少なくとも「3人以上殺していなければ死刑にはならない」などということはないと分かっていただけると思います。

*1:https://www.crimeinfo.jp/

*2:控訴取下げの効力を争っているとされる1件については除きました。