文書特定のポイント

WADA/開示請求さん(以下「WADAさん」といいます)の以下の記事に接しました。

「マスクチーム」,存在せず #検察庁法改正の強行採決に反対します|WADA/開示請求|note

厚労省に対していわゆる「マスクチーム」に関する文書の開示請求を行ったが、同省から「そのような文書を作成・取得した事実はなく、実際に保有していない」との趣旨の回答があったことを報告する内容です。

これをもってWADAさんは「「マスクチーム」,存在せず」とされているわけですが、記事を読む限り、書き方が悪かったので文書が出てこなかった可能性もあるように、私には思えました(もちろん、実際にどうだったのかは分かりませんが)。WADAさんのご活動は社会的意義のあるものだと思うので、一応きちんとした文書を作成する立場にある者として、応援の意味もこめて感じたところを申し上げておきます。

WADAさんの記事にあげられている不開示決定通知書の記載を見ると、WADAさんは次のような文書についての開示請求を行ったようです。

内閣官房長官が国会で明らかにした、厚労省経産省総務省からなる「マスクチーム」なるものの実態、実際に何をやっているかが分かる、業務日誌、報告書、決裁書等の一切の文書

私がこれを見てまず思ったのは、「ちょっと趣旨がとりにくいな」ということです。

きちんとした文章で大事なのは「何を指し示しているかが特定されていること」です。逆に、特定さえされていれば名称が多少不正確でもそこまで気にはされないものです。

このような観点からすると、「マスクチーム」が正式名称なのかそうでないのかは知りませんが、仮に正式名称でないとしてもそのこと自体は致命的な問題とまでは言えないと思います。もっとも、上記記載では「マスクチーム」が何を指し示しているかがやや不明確です。「内閣官房長官が国会で明らかにした」とありますが、せめて、いつ、どこで*1、どのような発言によって明らかにしたというのか示すべきだろうと思います。該当箇所にマーカーを引いた議事録の写しを参考資料として添付してみてもよいかもしれません。

さらに、「マスクチーム」が特定されたとしても、それだけでは十分ではありません。開示請求において特定すべきは、「開示すべき文書」だからです。それでは、「開示すべき文書」はどのように特定するのか。それは大まかに言えば、「いつ、だれが作成した、どのような文書か」を明らかにすることによってです。

今回の場合、これまでに作成されたすべての文書の開示を求めても大した量にはならないですし、おそらくWADAさんもそうされるおつもりでしょうから、「いつ」はあまり問題になりません。マズいのは、「だれが作成した、どのような文書か」という部分が明らかでないことです。まず、「だれが」ということについてはそもそも記載されていません。そして、ここが一番問題だと思うのですが、「どのような文書か」ということについて、「「マスクチーム」なるものの実態、実際に何をやっているかが分かる」との記載では趣旨があまりにも不明瞭です。このような記載では何をもって「分かる」というのかがはっきりせず、たとえば「マスクチーム」の沿革や活動内容、組織図等を記載した文書を求めているように(も)読めてしまいます。このような書き方をするくらいなら、端的に「マスクチームが作成した業務日誌、報告書、決裁書等の一切の文書」くらいの記載にでもした方がよほどよいと思います(作成者をどのように設定するかには工夫の余地があるでしょうが)。

以上、本件について精査したわけではなく、思いつくままに書き散らしただけですが、本記事が少しでもお役にたち、1件でも多くの開示を受けられるよう祈ります。なんにせよ、「分かる」というのは趣旨が不明瞭になりやすいので、あまり使わない方が無難ではあると思います。

*1:単に国会というのではなく、少なくとも「衆(参)議院××委員会」くらいまで明らかにするのが望ましいでしょう。