障害児への過剰な敵意を解消するために

はじめに

以下の匿名記事に接しました。

加害する障害者をどうすればいいんだよ?

著者の通っていた小学校では養護学校の子と一緒に給食を食べることになっていたが、養護学校の子の一人が誰彼かまわず殴りまくる子で酷い目にあった。責任能力がなく何をやっても無罪の彼らが憎く、共生なんて絶対にしない、というような内容です。

障害のある人とどのように関係をもっていくかというのはなかなか難しい問題ですが、いずれにせよこの匿名記事のように「障害者はやりたい放題」などと勝手に思い込んで一人で憎悪を募らせていくのがよくないことは間違いないですね。

とりあえず、障害児に対する過剰な敵意を払しょくするための足がかりとして、上記匿名記事について簡単にコメントしてみようと思います。なお、記事に出てくる子どもたちについては、とりあえず10歳くらいと想定して話を進めます。

刑事上の責任

まず、誰彼かまわず殴りまくるという養護学校の彼(女)*1。彼が何をしても無罪だというのはそのとおりです。もっとも、そのことで「だからあいつらはズルい」などと憤るのは的外れです。それは障害という事情に配慮していないからなどではありません。他の(健常な)小学生*2も同じだからです。

わが国の刑法では、責任年齢というものが定められています。責任年齢は14歳とされており、その年齢に満たない者の行為については、罰せられることはありません。

そうすると、どのような帰結となるか。

説明するまでもないでしょうが、14歳に満たない小学生たちも全員、何をしても無罪だ、ということになります。養護学校の彼だけが特別なわけでは全くありません。

民事上の責任

以上は刑事上の責任についての話ですが、民事上の責任についても見ておきましょう。

不法行為などとして民事上の責任を追及する場合にも、やはり責任能力は求められます。もっとも、民事では刑事のように責任年齢が法定されているわけではありません。行為の責任を問う前提として、「自己の行為の責任を弁識するに足りる程度の知能」を備えていることが必要とされるのです。

こうした民事上の責任能力については一律に判断できるものではありませんが、実務上は12歳あたりが一応の目安であるとは言われているところです。したがって、10歳くらいの小学生であれば、やはり養護学校の子と同様、民事上も責任を問われない可能性が十分あると思われます。

また、もう少し根本的な話をすると、小学生くらいの子どもの場合、資力のない本人に対して損害賠償請求ができるかという問題よりも、親や学校などに対して損害賠償請求ができるかという問題の方が大きな意味を有することは少なくありません。こうした資力ある者への責任追及のための手段も、さまざまに用意されているところです。

たとえば不法行為者本人が責任無能力である場合には、親などの監督義務者が、その義務を怠らなかったこと等を証明しない限り責任を負うこととされています。また、学校側には児童に対する安全配慮義務がありますから、こうした義務への違反を理由として損害賠償を請求することなども考えられるところです。

このように、民事上の責任についても養護学校の彼だけが特別であるとは言えません。それに、仮に本人への責任追及が難しい場合――そのような場合は養護学校の彼だけでなく小学生たちについてもありうるわけですが――には、本人以外への責任追及の手段も用意されているのですから、泣き寝入りを強いられるということもありません*3

おわりに 

以上、養護学校の彼や小学生たちの刑事上・民事上の責任等について、簡単に説明してみました。

よく言われるところですが、共生の第一歩は相手を知ることです。きちんと実態を見ることもないまま、相手を悪魔化して思い込みだけで憎しみを募らせていっても、よいことは何もありません。

本記事が、障害児等の責任について正しい知識を得る助けとなることを願います。

*1:以下、煩瑣なので単に「彼」と表記しますが、もちろん性別を限定する趣旨ではありません。

*2:以下、やはり煩瑣なので単に「小学生」と表記します。

*3:もちろん、実際に争った場合に請求が認容されるかどうかは当人の立証活動次第ではあります。