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過労と脳・心臓疾患

雑記

先日の記事で、いわゆる過労死ラインを説明するために、現行の「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の 認定基準」*1(以下、「現行基準」という。)に言及した。これが脳・心臓疾患を労災認定する際の基準として厚生労働省によって定められたものであることはその中ですでに述べた。もっとも、先日の記事では、記事の趣旨を外れることから、その判断枠組みの仔細についてまでは説明しなかった。現行基準を直接確認していただければ足りると思われるところではあるが、それ以前の基準等の紹介とあわせて、簡単にだけ説明を加えておくことにする。 

行基準では、脳・心臓疾患を労災認定するためには以下の要件を充足することが求められる。

次の(1)、(2)又は(3)の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。

(1) 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと。

(2) 発症に近接した時期において、特に過重な業務(以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと。

(3) 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に就労したこと。

ここで「発症に近接した時期」とは発症前おおむね1週間、「発症前の長期間」とは発症前おおむね6か月をいう。上記(2)や(3)における業務過重性の判断は、業務量、業務内容、作業環境等、さまざまな負荷要因を考慮してなされるが、特に(3)における判断にあたってふまえるべきこととされているのが、いわゆる過労死ラインである。 

これに対して、現行基準が定められる以前の基準(以下、「旧基準」という。)は、以下のようなものであった*2

次の(1)及び(2)のいずれの要件をも満たす脳血管疾患及び虚血性心疾患等は、労働基準法施行規則別表第1の2(以下「別表」という。)第9号に該当する疾患として取り扱うこと。

(1) 次に掲げるイ又はロの業務による明らかな過重負荷を発症前に受けたことが認められること。

イ 発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事(業務に関連する出来事に限る。)に遭遇したこと。

ロ 日常業務に比較して、特に過重な業務に就労したこと。

(2) 過重負荷を受けてから症状の出現までの時間的経過が、医学上妥当なものであること。

行基準と比較すれば明らかなとおり、旧基準では、「短期間の加重業務」と「長期間の加重業務」とが明確に区分されていない。旧基準の運用にあたっては、「発症前1週間より前の業務については、この業務だけで血管病変等の急激で著しい増悪に関連したとは判断し難いが、発症前1週間以内の業務が日常業務を相当程度超える場合には、発症前1週間より前の業務を含めて総合的に判断すること。」とされており、長期間の加重業務が健康に及ぼす影響について、十分に理解されていなかったのである。

当然のことながら、かかる旧基準に対しては、慢性の疲労等をより考慮するべきであるとする厳しい批判が加えられていた。また、現行基準が定められる前年の平成12年には、最高裁が慢性の疲労等と脳疾患(くも膜下出血)との間に相当因果関係を認める注目すべき判決を下していた*3。このような状況下で新たに定められたのが現行基準であり、「疲労の蓄積」という概念を明確に認めたところにその最大の意義があったものということができよう。

*1:http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/09/s0906-5b2.html

*2:http://labor.tank.jp/hoken/nintei/nou-sin_rousainintei08.html

*3:最判平成12年7月17日(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/785/062785_hanrei.pdf)。