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報道と法律用語

デマ・誤情報

小説のドラマ化中止裁判でNHKが控訴したという朝日新聞デジタルの記事を読んだ。事件自体に興味はないが、記事中にある以下の表現が気になった。

4月28日に東京地裁であった判決では、「(原作者から)脚本の承認がされていない以上、許諾契約が成立したとは言えない」とNHKの訴えを棄却していた。

NHKが控訴 小説のドラマ化中止裁判、一審で敗訴:朝日新聞デジタル

同記事中には一審判決について報じた記事へのリンクもはられているが、そちらのタイトルも、「NHKの訴え棄却 原作のドラマ化契約解除巡り東京地裁:朝日新聞デジタル」となっていた。この表現に違和感を覚える人間が社内にいないということだろうか。

 

私が気になったのは、「訴えを棄却」という表現である。ある程度法学的な素養のある人間ならば、「訴えの却下」か、「請求の棄却」とするところだ。訴えの却下と請求の棄却については、以前簡単にではあるが書いた。本件では、記事中に引用されている判決文から、本案について判断していることが読み取れるので、「請求棄却」ということになる。

刑事事件の被告人についての「被告」表記のように、報道機関は法律用語について独自の運用を行っていることもあるので、これを誤りというべきではないのかもしれない。また、些末な用語の違いにこだわるのは、法律家特有の狭量な態度だと見る向きもあろう。

しかし、訴えとは、「特定の裁判所に対して、原告の被告に対する特定の権利主張の当否についての審判を求める原告の申立て」のことをいう*1。したがって、たとえ請求を棄却する場合であっても、裁判所は、原告の申立てに応じて(請求棄却という)審判を行っているのだから、訴えを退けたものとは言えない。にもかかわらず、これを「訴え棄却」と表現してしまうことには、些末な用語の違いにとどまらない、重大な問題があるように、私には思えるのである。 

*1:笠井正俊・越山和広編『新・コンメンタール 民事訴訟法 第2版』(日本評論社、2013年)518頁[名津井吉裕]。