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わが国における法令違憲判決まとめ

本記事について

先日、最高裁は、民法733条1項のうち100日を超える再婚禁止期間を定める部分について、憲法に反するとの判断を示した。これが、わが国で10件目の法令違憲判決となる。最高裁による法令違憲判決は、ここ10年ほどの間に急増しており、憲法判断に対する裁判所の姿勢に変化の兆しがうかがえるところである。本記事では、これまでに出た法令違憲判決をできるだけ簡潔にまとめてみたい。なお、以下に摘示する条文はいずれも当時のものである。

尊属殺重罰規定事件

最大判昭和48年4月4日(刑集27巻3号265頁)*1

被告人が実父を殺したとして刑法200条の尊属殺で起訴された事件。

普通殺人に関する刑法199条の法定刑が死刑または無期もしくは3年以上の有期懲役であったのに対し、自己または配偶者の直系尊属を殺すいわゆる尊属殺に関する刑法200条の法定刑は死刑または無期懲役とされていた。このため、尊属殺については、法律上の減軽および酌量減軽を行っても(=最大の減軽を加えても)懲役3年6月にしかならず、執行猶予を付することができなかった*2

最高裁は、憲法14条1項について、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的取扱いを禁止する規定であるとした*3。そして、刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役に限っている点で、普通殺に比して著しく不合理な差別的取扱いをするものであり、憲法14条1項に反するとの判断を示した。

薬事法距離制限事件

最大判昭和50年4月30日(民集29巻4号572頁)*4

医薬品一般販売業の営業許可を申請したところ、既存の市場から一定の距離以上離れているとの条件をみたさないとして不許可とされたため、許可申請者が、このようないわゆる適正配置規制*5違憲であるとして、不許可処分の取消しを求めた事件。

最高裁は、一般に職業の許可制は、原則として重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、またそれが職業活動の社会に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、職業活動の内容および態様に対する規制によってはかかる目的を達成できないことを要するとした。そして、本件適正配置規制は消極的、警察的措置であるところ、上記のような条件をみたさず憲法22条1項に反するとの判断を示した。

小売市場距離制限事件*6とあわせて、いわゆる目的二分論をとった判例として位置づけられる。

議員定数不均衡事件(昭和51年)

最大判昭和51年4月14日(民集30巻3号223頁)*7

昭和47年に行われた衆議院議員選挙では、一票の格差が1:4.99にまで達しており、かかる不平等を生ずる議員定数配分規定は違憲であるとして選挙の有効性が争われた事件。

最高裁は、憲法14条1項、15条1項、同条3項、44条ただし書きは投票価値の平等を要求するものであり、本件議員定数配分規定はこれらに違反するとした。一方で、選挙を無効とすると却って憲法の所期するところに適合しない結果を生ずるおそれがあるとして、いわゆる事情判決の法理を一般的な法の基本原則として適用し、選挙自体の効力は否定せず違法を宣言するにとどめた。

議員定数不均衡事件(昭和60年) 

最大判昭和60年7月17日(民集39巻5号1100頁)*8

昭和58年に行われた衆議院議員選挙では、一票の格差が1:4.40にまで達しており、かかる不平等を生ずる議員定数配分規定は違憲であるとして選挙の有効性が争われた事件。

最高裁は、本件議員定数配分規定は憲法の選挙権の平等の要求に反して違憲であるとしつつ、やはりいわゆる事情判決の法理を一般的な法の基本原則として適用し、選挙自体の効力は否定せず違法を宣言するにとどめた。

森林法共有分割制限事件

最大判昭和62年4月22日(民集41巻3号408頁)*9

森林について2分の1の持ち分を有する共有者が、その分割を求めた事件。

森林法186条は、持ち分が2分の1以下の森林共有者について、森林の分割請求権を否定していた。

最高裁は、財産権の規制について、財産権の種類やその規制目的等が多様でありうることから原則として立法府の判断を尊重するべきであり、①規制目的が公共の福祉に合致しないことが明らかであるか、②(規制目的は公共の福祉に合致するとしても)規制が目的達成の手段として必要性又は合理性を欠くことが明らかな場合に限り、憲法に違背するとした。そして、森林法186条は財産権の規制にあたるところ、上記のような条件をみたさず憲法29条2項に反するとの判断を示した。

郵便法免責規定事件

最大判平成14年9月11日(民集56巻7号1439頁)*10

債権差押命令を特別送達郵便物(書留郵便物の一種)として第三債務者に送達するに際し、これを送達するべき郵便業務事業者の重大な過失によって送達が遅延したため債権差押えの目的を達することができず損害を被ったとして、執行債権者が国に対して国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求した事件。

郵便法68条は、書留郵便物の亡失・毀損等、同条1項各号に該当する場合の賠償責任を一定額に限定し、それ以外の場合の賠償責任を免除する。同法73条は、損害賠償の請求権者を差出人またはその承諾を得た受取人に限定する。

最高裁は、公務員の不法行為による国等の賠償責任を免除・制限する規定が憲法17条の付与した立法裁量*11の範囲内であるか否かを判断するにあたっては、 当該規定の目的の正当性および目的達成手段としての必要性・合理性を総合的に考慮するべきであるとした。そして、郵便法68条、73条のうち、書留郵便物について郵便事業従事者の故意・重過失によって損害が生じた場合に賠償責任を免除・制限している部分および特別送達郵便物について郵便事業従事者の軽過失によって損害が生じた場合に賠償責任を免除・制限している部分は、裁量の範囲を逸脱しており、憲法17条に反するとした。

在外邦人選挙権制限事件

最大判平成17年9月14日(民集59巻7号2087頁)*12

外国に居住し国内に住所を有しない日本国民(以下、「在外国民」という。)らが、衆議院小選挙区選出議員の選挙および参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使できることの確認等を求めた事件。

平成10年の公職選挙法一部改正(以下、「本件改正」という。)前、在外国民は選挙人名簿に登録されない結果、国政選挙に投票することができなかった。本件改正によって在外選挙人名簿が調製されこれに登録された者の選挙権行使が認められることとなったが、当分の間その対象となる選挙は衆議院および参議院比例代表選挙に限る(衆議院小選挙区選出議員の選挙および参議院選挙区選出議員の選挙は対象としない)とされた。

最高裁は、選挙権やその行使を制限することは、そうした制限をすることなしに選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であるようなやむを得ない場合に限って認められるとした。そして、本件改正前の公職選挙法が在外国民の投票をまったく認めていなかったこと、本件改正後の公職選挙法在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間衆議院および参議院比例代表選挙に限っていることについてそのようなやむを得ない事情は認められず、いずれも憲法15条1項、同条3項、43条1項、44条ただし書きに反するとの判断を示した。

非嫡出子国籍取得制限事件

最大判平成20年6月4日(民集62巻6号1367頁)*13

日本国籍を有する父とフィリピン国籍を有する母との間に生まれた子(上告人)が、出生後父から認知された(ただし父母は婚姻せず)ことを理由に国籍取得届を提出したものの日本国籍を取得していないとされたため、日本国籍を有することの確認を求めた事件。

国籍法3条1項は、法律上婚姻関係にない日本国民たる父と日本国民でない母との間に出生した子について、父母の婚姻およびその認知がある場合に限り、子は日本国籍を取得しうるとする。また、国籍法2条1号が、出生時に父または母が日本国民ならば子を日本国民とする旨定めていること等により、法律上婚姻関係にない日本国民たる父と日本国民でない母との間に出生した子でも、胎児認知がなされていれば生来的に日本国籍を取得することになる。

最高裁は、国籍取得要件に関して異なる取扱いを定める規定について、①異なる取扱いを定める目的に合理性がない場合や、②(目的自体には合理性があっても)異なる取扱いと目的との間に合理的関連性がない場合には、憲法14条1項に違背するとした。そして、国籍法3条1項が、日本国民たる父と日本国民でない母との間に出生し生後認知があるにとどまる子について、上記のとおり嫡出子や胎児認知がなされた非嫡出子と異なる取扱いをしていることは、②に該当し憲法14条1項に反するとの判断を示した*14

非嫡出子法定相続分規定事件

最大決平成25年9月4日(民集67巻6号1720頁)*15

遺産分割審判において、非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法900条4号ただし書きの合憲性が問題となった事件。

最高裁は、家族観等の諸要素を考慮して決する必要性から立法府に認められる相続制度を定めるにあたっての裁量を考慮しても、すでに嫡出子と非嫡出子との法定相続分を区別する合理的根拠は失われていたとして、民法900条4号ただし書のうち非嫡出子の相続分を嫡出子 の相続分の2分の1とする部分は憲法14条1項に反するとの判断を示した。

女子再婚禁止期間事件

最大判平成27年12月16日(本記事公開時点では判例集未登載)*16

国が女性について6か月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の改廃を怠ったために婚姻時期が遅れ精神的苦痛を被ったとして、離婚後再婚した女性が、国に対して国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求した事件。

民法772条は、婚姻成立から200日経過後または婚姻解消から300日以内に生まれた子について、当該婚姻にかかる夫の子であると推定する。このため、前婚解消後すぐに再婚した場合、父性の推定が重複することとなる。民法733条は、主にこのような推定の重複を避けるための規定であると説明される。

最高裁は、再婚の際の要件にかかる男女の異なる取扱いが、憲法14条1項、24条1項に適合するか否かを判断するにあたっては、異なる取扱いをする目的に合理的根拠があり、かつその異なる取扱いと目的との間に合理的関連性があるかという観点から検討するべきであるとした。そして、民法733条のうち、100日を超える再婚禁止期間を定める部分については、父性推定の重複回避や父子関係をめぐる紛争の未然防止等の目的との合理的関連性がなく、憲法14条1項、24条1項に反するとの判断を示した*17

*1:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/416/036416_hanrei.pdf

*2:3年を超える懲役が言い渡された場合、執行猶予を付することができない。刑法25条1項参照。

*3:なお、以後は特記しないが、憲法14条1項が問題となる判例では、すべてこの規範が前提にある。

*4:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/936/051936_hanrei.pdf)

*5:薬事法6条2項、同条4項(及びそれを準用する26条2項)。なお、申請はこれらの規定に基づく「薬局等の配置の基準を定める条例」3条の定める基準に適合しないとして不許可とされたものである。

*6:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/995/050995_hanrei.pdf

*7:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/234/053234_hanrei.pdf

*8:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/712/052712_hanrei.pdf

*9:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/203/055203_hanrei.pdf

*10:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/038/057038_hanrei.pdf

*11:憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と規定する。

*12:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/338/052338_hanrei.pdf

*13:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/416/036416_hanrei.pdf

*14:もっとも、最高裁は、当該区別にかかる違憲の瑕疵を是正するため、国籍法3条1項全体を無効とするのではなく、過剰な要件によって当該区別を生じさせている部分のみを除いて同項を解釈するべきであるとして、上告人の同項による日本国籍取得を認めた。

*15:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/520/083520_hanrei.pdf

*16:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/547/085547_hanrei.pdf

*17:もっとも、国会が民法733条を改廃しなかったことは国賠法上違法の評価を受けるものではないとして、最高裁は、女性の請求を棄却した原審の判断を結論において是認した。