「憲法によって国家権力を制限し国民の権利を保障する」ということの理解を助けるため、「踏絵法」という架空の法律の成立を仮定し、その内容について説明してきました。
さて踏絵法施行下において踏絵検査が実施され、検査を拒否したAが起訴されました。すでに見たとおり踏絵法は検査を拒否した者に罰金を科すると規定しているのですから、普通に考えればAには罰金が科せられることとなりそうです。しかしここで裁判所は違憲審査権*1を行使し、「踏絵検査を拒否した者に罰金を科する旨を定める踏絵法の規定は、思想・良心の自由を定めた憲法19条に違反し無効である」と判断しました。この結果、Aには無罪判決が下されることとなったのです。
もちろんこれは一例にすぎませんが、「憲法によって国家権力を制限し国民の権利を保障する」とは、こういうことです。国民国家を前提として社会生活を営む以上*2国民は国家の定める一定の規範に服せざるを得ず、憲法は国家機関たる国会に規範定立の権限を与えています*3。したがって本来、国会でしかるべき手続を経て成立した法律は、 国民をしばる力を持ちます。しかし国民の権利を保障するため、そのような法律によってもしばることのできないラインや、そのラインを守らせるための仕組みをも、憲法は同時に用意しているのです。(続く)