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アパ本への「反論」なのです(私見)

はじめに

少し前に、アパホテル南京大虐殺を否定する内容の書籍を客室に設置していることなどが海外で伝えられ、大きな話題となった*1。これをうけて、アパは同書籍の該当部分を公開していたのだが*2、今般、id:scopedogさんが、同書籍該当部分に対する反論記事(以下、「反論記事」という。)を公開された。

アパホテルが「「南京大虐殺」が「虚構である」証拠の数々」と称して公表している内容について反論しておく - 誰かの妄想・はてな版

簡潔でありながらきちんと根拠資料をたどることもできる立派な内容であり、私などは短期間のうちにこれだけのものを仕上げられたことに感嘆するばかりだったのだが、人気となっているブックマークコメントの反応は意外なものであった*3

なんというか「事実は不明」としか読めない。肯定派も否定派も論拠に乏しくなんとも言えない。事実はどうなんだろうなぁ、とりあえず30万人は盛ってる数字に思えるくらいだ。

http://b.hatena.ne.jp/entry/316884587/comment/tpircs

tpircsさんがなにをもって「論拠に乏し」いとされているのか不明であるが、「肯定派も否定派も」との文言から、私はなんとなくtpircsさんが反論記事の趣旨を取り違えておられるのかな(tpircsさんと同趣旨のコメントをつけた他の方々も、あるいは同様かもしれない)、と感じながら見ていた。今般、南京での犠牲者30万人説の妥当性を云々する以下の記事(以下、「ココ掘れ記事」という。)が公開されるにいたり、反論記事の趣旨を取り違えておられる方は想像以上に多いのかもしれないと考え、簡単に説明を加えてみることにした。

南京大虐殺論争に決着をつけるためのココ掘れワンワン: ニュースの社会科学的な裏側

もちろん、ここで行う説明は、反論記事の趣旨等に関する私なりの理解であるから、誤っている箇所があれば、scopedogさんよりご指摘いただき次第お詫びして訂正する。というよりも、このような記事の公開自体が完全に差し出口であるので、一言ご連絡をいただければ記事自体の削除にも速やかに応じる所存である。

反論記事について

反論記事は、「アパホテルが(中略)公表している内容に反論しておく」*4 との表題から明らかなとおり、アパのホテル客室に設置されている上記書籍でなされている主張に対する反論である。

そこで、反論記事について語る前に、まず反論の対象である同書籍がどのような主張を行っているのかを確認しておこう。

アパ本の主張

同書籍では、日本側の責任に一切触れることなく、「いわゆる南京虐殺事件が中国側のでっちあげであり、存在しなかった*5などとして中国側を終始口汚く罵っている*6。また、「「南京大虐殺」が「虚構である」証拠の数々」として、「当時、国民党は「南京大虐殺」などという事を一度も言ったことが無かったという。何故か?それは、その様な事は全く起きていなかったから言わなかっただけである。仮に、当時、南京で「大虐殺」が起きていたならば、其の事を其の記者会見の場で取り上げないはずがなかった」「蒋介石の『国民に告ぐる書』のどこを探しても、そこには『南京大虐殺』の文字は見当たらない」などとも述べている。このような文言から、同書籍が南京虐殺事件における規模を問題にしているものと解することは難しい。

ココ掘れ記事の作成者をはじめとする少なからぬ人々は、同書籍の主張を、「南京虐殺事件の犠牲者は30万人もいなかった」というものに矮小化せんとするかのようであるが、この時点で欺瞞があると言わざるを得ない。普通に読めば、同書籍は、その規模の大小にかかわらず、日本軍による南京での虐殺の事実それ自体を否定するものである。話題の発端となった動画の公開者も「滞在中に部屋の中の読み物をチェックしてて、ショックを受けました。CEOによって書かれた本、南京虐殺は完全な嘘で完全な捏造だと」と述べていたようであるから*7、同書籍の主張を(規模ではなく)南京虐殺そのものの否定と捉えており、だからこそこれだけの話題となっているのである。これを単なる「30万人説の否定」として片づけるのは、あまりにも強弁がすぎる。

反論記事の趣旨

さて、このような同書籍の主張に対する反論者が行うべきことはなにか。それは、同書籍が主張の根拠(証拠)として摘示する事実が真実でないこと、あるいは仮に真実であるとしても主張の根拠として意味を有しないことについての立証活動である。

上記のとおり、同書籍の主張は「30万人説の否定」ではなく「日本軍による虐殺そのものの否定」であると思われるのでいっそう分かりやすいが、仮に同書籍の主張が純然たる「30万人否定説」と呼べるようなものであったとしても、反論者において「30万人説が妥当であること」を立証する必要はまったくない。主張に対する批判は、別の主張が正しいことによってではなく、当該主張の根拠がない(薄弱である)ことによって十分に成立する。すなわち、同書籍の主張が根拠(証拠)として摘示するものがいずれも根拠となりえないことさえ立証できれば、それで同書籍の主張が失当であることは十分に明らかとなるのである。そして、scopedogさんの反論記事も、これを行ったものにすぎず、「30万人説が妥当である」と主張するものではない。

ココ掘れ記事の作成者などはどうもこの点を誤解して、scopedogさんなどが30万人説を支持していると考えているようだが、scopedogさんは過去記事において30万人説の疑問点についても言及しており、必ずしもその人数を間違いのないものとして支持しているわけではない。

30万人説に対する個人的見解 - 誰かの妄想・はてな版

反論記事は、あくまでも同書籍の挙げる根拠が不適切だと述べているのであって、それ以上でもそれ以下でもない。ブックマークコメントを見る限り、この構造を理解できていない方もいらっしゃるように思えるのだが、いかがだろうか。

おわりに

以上、反論記事の趣旨などについて簡単に説明を加えてみた。いくらかでも理解の助けとなれば幸いである。

*1:https://matome.naver.jp/odai/2148458926631252201

*2:https://www.apa.co.jp/newsrelease/8325

*3:紹介するのは私の閲覧時に最も人気を集めていたid:tpircsさんのコメントだが、他にも同趣旨のもの多数。

*4:引用者において一部省略した。

*5:引用者において一部太字強調を施した。なお、以下も太字強調は引用者による。

*6:その規模はさておき虐殺があった事実自体を認めるならば、自らの責任には一切触れずひたすらに相手方を罵倒するような態度など恥ずかしくてとれないと私などは思うのだが、これはあまりに情緒的すぎるだろうか。

*7:前掲注1のまとめ参照。なお、平成29年1月22日現在、同動画は視聴できなくなっている。