香山リカ「批判」の歪さ

香山リカ「批判」

一部界隈で、香山リカ「批判」が盛り上がっている。

香山は昨日銀座で行われた慰安婦問題での日韓合意に反対するデモへの抗議行動を行っていたところ、「批判」者は、その際の香山の表情や抗議意思の表明として中指を立てたこと等をとりあげ、けしからんと主張するもののようだ。

もっとも、批判記事やそれに付けられたブックマークコメントを読んでも、なにがそこまで大騒ぎするほど問題なのかはよく分からない*1

はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`) : 【画像】 香山リカさん、中指立ててヘイトを撒き散らす - ライブドアブログ

「批判」の分類

香山に対する「批判」は、突き詰めると、次のいずれかにたどり着くようである。

表情を嘲笑するもの

一つは、(主に)抗議の際の香山の表情をとりあげて嘲笑するもの。

「自称精神科医、実は単なる精神病患者」「更年期障害?」「完全にキチガイの顔」「目がイッてる」「顔がもうヤバイ……テレビなどに出るのであれば、人間に戻ってからにしてもらいたい」などである。

これらは、そもそも批判の名に値しない。id:RRDさんが正当に指摘する*2ように、真剣な者が必死の形相になるのは当然のことだ。他者の真剣さそれ自体を嘲笑するのは、端的に言って下衆である。

そもそも、香山の「攻撃的」な言動を批判する文脈で、香山の言動に憤慨しながら、同時にこのような(はるかに酷い)罵倒*3を投げつけて平然としているというのは、まったく理解しがたい。いったいどういう神経をしているのか。

香山の言動をヘイトであるとするもの

もう一つは、「ヘイト取りがヘイトに」「左翼のヘイトは綺麗なヘイト」といった類の、香山の言動を(自らが批判しているはずの)ヘイトであるとする批判である。批判記事自体も、タイトルが「【画像】香山リカさん、中指立ててヘイトを撒き散らす」とされており、同様の主張を含意しているように思われる。

しかし、「特定の主張を行う集団に対し抗議意思の表明として中指を立てる行為」は、たとえば「在日朝鮮人に対するヘイトスピーチをやめろ」というときに用いられる意味での「ヘイト」ではない。したがって、この種の批判は、その前提に誤りがあり、理由がない。なお、「何がヘイトか」という問題については、これまでにも多くの者がくり返し説いているところであるので*4、本記事では改めて触れない。

歪な「批判」

香山に対する「批判」は、おおむね以上のようなものである。一読して明らかなとおり、大騒ぎするほどのものではまったくないが、一方で、香山の言動をヘイトであるとする主張については、「下品な言動をするべきでない」という程度の趣旨であると好意的に解釈するならば、それはそれで一つの意見であるとも言えるだろう。

しかし、「下品な言動をするべきでない」との主張に焦点を当てるならば、当然問題とされなければならないことが、批判記事やブックマークコメントでは見事なまでに無視されている。それは、「香山がどのような場面で問題となっているような言動をとったのか」ということである。

冒頭に述べたとおり、香山は昨日行われた慰安婦問題での日韓合意に反対するデモへのカウンターとして、問題の言動をとっていたものである。同デモには、在特会の前会長である桜井誠(通称)も参加しており、コーラーは「乞食国家韓国」などというそれこそ下品きわまりない言葉を連呼していた*5。同デモ参加者は、沿道のカウンターに対して拡声器を用いて「バカチョン」等の聞くに堪えない言葉を連呼しており、桜井は沿道のカウンターに対して終始「突っこんでこい」などと挑発行為をくり返していた。香山の言動はかかる状況下においてなされたものであり、下品な言動を諌めるのであれば、かかる状況を明らかにしたうえで、香山とともに、というよりは香山以上に*6、同デモに対して批判が向けられるべきであろう。

ところが、いくつかの批判記事を見ても、同デモ側の言動の悪質性にはまったく触れられていない。それどころか、注意力のない読者であれば香山の言動が同デモへのカウンターとして行われたということにさえ気づかないのではないかと懸念されるほど、同デモへの言及自体が簡素なものなのである。

いったいどうしてこのようなことになるのか。興味深いところであるが、ひとまず備忘として記しておく。

*1:閲覧数の増加になるべく貢献したくないので、批判記事自体へのリンクははらない。

*2:はてなブックマーク - RRD(ranrando)のブックマーク - 2016年1月11日

*3:なお、これらの多くはまさしく「ヘイト」に該当しよう。

*4:たとえばhttp://kdxn.tumblr.com/post/66296158976参照。

*5:一参加者ではなく、コーラーがこのような下劣な文言を用いていたということはきわめて問題であろう。

*6:「デモ」と「(デモへの)カウンター」という先後関係上、発端はデモ側に求められるであろうし、言動の悪質性においても明らかにデモ側の方が高いと言えよう。