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生活保護の開始申請について

数々の痛ましい事件によって、生活保護の開始申請を受け付けようとしない、いわゆる「水際作戦」が許されないものであるということは多くの人に知られるようになった。

ところで、許されない申請の受付拒否とは、具体的にはどのようなものであるとお考えだろうか。

「まだ働けるんだから」「親兄弟に助けてもらいなさい」

などという理由での受付拒否が許されないものであることについては異論がなかろうと思う。

しかしたとえば、

「書類に不備があるので受け付けられない」

と言われれば、そういうものかと納得される方も多いのではないだろうか。実際、生活保護法にも一見そのように読める条文がある。

(申請による保護の開始及び変更)

第二十四条  保護の開始を申請する者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を保護の実施機関に提出しなければならない。ただし、当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない。

一  要保護者の氏名及び住所又は居所

二  申請者が要保護者と異なるときは、申請者の氏名及び住所又は居所並びに要保護者との関係

三  保護を受けようとする理由

四  要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む。以下同じ。)

五  その他要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な事項として厚生労働省令で定める事項

2  前項の申請書には、要保護者の保護の要否、種類、程度及び方法を決定するために必要な書類として厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない。ただし、当該書類を添付することができない特別の事情があるときは、この限りでない。

3ないし10 (略)

このように、生活保護法24条1項では、特別の事情がある場合を除き「申請書を保護の実施機関に提出しなければならない」とされ、また同条2項において、この申請書には「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」とされている*1。そのため、これらの書類に不備があれば、申請が受け付けられなくともやむを得ないように思われるかもしれない。

しかし、そのような理解は誤りである。

申請書の提出は生活保護開始申請の要件ではなく、申請意思が客観的に明確であれば、たとえ口頭での申請であってもこれを申請と認めることができるとするのが裁判例である*2。また、平成25年11月12日参議院厚生労働委員会生活保護法の一部を改正する法律案に対する附帯決議』*3においても、以下のように述べられている。

二、申請権侵害の事案が発生することのないよう、申請行為は非要式行為であり、障害等で文字を書くことが困難な者等が口頭で申請することも認められるというこれまでの取扱いや、要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で保護決定までの間に行うというこれまでの取扱いに今後とも変更がないことについて、省令、通達等に明記の上、周知するとともに、いわゆる「水際作戦」はあってはならないことを、地方自治体に周知徹底すること。

ここでは申請行為が非要式行為であること、そして要否判定に必要な資料の提出は可能な範囲で(申請時ではなく)保護決定までの間に行われることが明確に述べられ、いわゆる「水際作戦」はあってはならないことが強調されている。

したがって、書類の不備も申請の受付けを拒む理由とはならない。結局のところ、申請の意思を客観的に明確に示してさえいればそれは申請として認められ、その受付けを拒むことは基本的には許されない、ということだ。

 

以上、いわゆる「水際作戦」によって泣き寝入りする方が一人でも減ることを願ってここに記すものである。 

*1:もっとも、現在のところ「厚生労働省令で定める書類」はないようだ。

*2:大阪高等裁判所平成13年10月19日判決(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/508/015508_hanrei.pdf)など。

*3:http://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/185/f069_111201.pdf