留置権と同時履行の抗弁権

留置権と同時履行の抗弁権との違いがピンとこないという記事を見かけた。

やはり基本的には、条文、判例、基本書をきちんと読みこむというのが大切だろうと思う。当然のことではあるが、条文については意外とおろそかにする方が多い。

一方、こうした作業を経てもなお理解できないことは少なくないというのも、また事実だろう。そのような不理解の多くは、イメージを持てていないということに起因する。物事を理解するうえでイメージを持つことはとても重要である。ここにイメージとは、全体像などを大づかみに把握するためのものであるから、どうしても誤りや不正確な部分を含むことが多い。ところが、基本書等、活字として世に出まわっているものは、基本的に間違ったことは書けないので、イメージを過不足なく伝えられていない。そのため、基本書等を通じての学習だけでは、どうしてもイメージを持てず理解できないという事態が生じてしまうのである。これは、ほぼ活字として世に出まわっているもののみを通じて学習せざるを得ない独学者*1にとっては大きな壁だろうと思う。

以上を前提として留置権と同時履行の抗弁権との違いについて私からコメントしておくと*2、両者がそれぞれどういう権利なのか、ということを意識してみるとよいかもしれない。留置権は、担保物権と言われるように、物権の一種である。これに対して同時履行の抗弁権は、物権ではない。双務契約において対立する両債務の牽連関係から、相手方の請求があった場合に、相手債務の履行があるまでは自身の履行を拒むという形での防御を認めた、拒絶権である。このような違いをイメージとして頭に入れておくと、理解が進むのではないだろうか。

なお、私が見かけた記事はずいぶん以前のものであり、記事を公開された方自身はすでに問題を解決しているであろうから、本記事は、留置権と同時履行の抗弁権との違いについて疑問を持つ方一般を対象としている。

*1:大学で学ぶ者はこの点を講義等の口伝えによってフォローするわけである。

*2:これはつまり、ここでのコメントは正確な説明というよりもイメージを持ってもらうことを目的とする、という趣旨である。