憲法の役割とリベラル(4)

「踏絵法」という架空の法律を題材に、「憲法によって国家権力を制限し国民の権利を保障する」ということについて考えてきました。最後に1点、見落とされがちなことを指摘しておきましょう。いわゆる私人間効力の問題です。

これまでくり返し述べてきたように憲法は国家権力を制限するものであるわけですが、そうである以上、これは市民(私人)間の問題に直ちには妥当しません。つまり市民社会の中で生じる問題、市民同士の問題については、憲法上の人権規定を直接適用できるとは必ずしも言えない、ということです。 

もちろん、市民間の問題は憲法とはまったく無関係だというわけでもなく、この点についてはさまざまな議論があります。通説的な見解とされる間接適用説は、規定の趣旨や文言等に照らして直接的な私法的効力を有すると解されるいくつかのもの*1を除く憲法上の人権について、その趣旨を私法の一般条項を解釈する際に取り込むことによって、私人間の行為を規律しようと試みるものです。こうした議論の詳細は、いずれ改めて論じることもあるかもしれません。

ともあれ、「憲法は国家権力を制限するものであり、市民間の問題に持ち出す場合には注意が必要だ」ということは押さえておいてください。

参考文献

芦部信喜高橋和之補訂)『憲法』(岩波書店、第6版、2015年) 

*1:たとえば、「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。」と定める憲法15条4項はその一例です。