増田での個人への言及は基本規約違反です・再論

はじめに

先日、はてな匿名ダイアリー(以下「増田」といいます)での個人への言及に関するでいだら(id:daydollarbotch)さんの以下の記事に接しました。

増田に自己または他人のidを記載する行為は規約違反か? - 誰かの肩の上(以下、「でいだら記事」といいます)

記事の内容としては、

  1. はてなの規約等において、増田でのid記載を禁止する規定はない
  2. はてなに問い合わせたところ、増田における他者のid記載は明示的に禁止していない旨の回答があった

ことを主たる理由として、増田での個人への言及が規約違反かどうかは自明でない(でいだらさん自身は規約違反でないと考えている)と主張するものでした。

ところで、増田での個人への言及については私も以下の記事で見解を示しています。

増田での個人への言及は基本規約違反です - U.G.R.R.(以下、「拙見解記事」といいます)

タイトルをご覧いただけば分かるとおり、 私は増田での個人への言及は基本的に規約違反だと考えています。私としては、このような自身の見解は必ずしもでいだらさんの見解と対立するものではないと思っていたのですが、やや不明確なところもあったため、でいだら記事のコメント欄にてやりとりをさせていただきました(でいだらさん、ありがとうございます)。その結果、でいだらさんは以下のようなお考えであることが分かりました。

  • 増田での迷惑行為、嫌がらせに該当しないような特定他者への言及は、(削除依頼に基づく削除があったとしても)規約違反であるとは限らない
  • 迷惑行為等としては、例えば、刑法上の名誉毀損・侮辱に当たる行為や、被言及者が被言及を嫌がっているのに被言及者に精神的苦痛を与えるために言及を重ねる行為などを想定している
  • 増田で行われる誹謗中傷を含まない(いわば「まとも」な)個人への批判は迷惑行為、嫌がらせに含まれない
  • 「削除依頼・削除の有無」は「規約違反か否か」の判定に影響しない

このようなお考えであるとすれば、おそらく私の見解とは異なるところがあるということになると思われます。そこで本記事では、私とでいだらさんの見解の一致するところ、異なるところを整理するとともに、私の見解を改めて説明しておきたいと思います。

増田での個人への言及のすべてが規約違反ではない

まず私とでいだらさんの見解で一致しているのは、「増田での個人への言及のすべてが規約違反ではない」という点です。

でいだらさんがそのような見解をとっていることは明らかでしょう。

そして私も、増田での個人への言及を扱った記事を、本記事も含めてこれまでに6本公開していますが、そのいずれにおいても増田での個人への言及は「基本的に」規約違反であるとか、「ほぼ」規約違反であるといった書き方をしており、そのすべてが規約違反であるという見解をとってはいません。

増田での個人への言及のすべてが規約違反というわけではないのだから、

  1. はてなの規約等において、増田でのid記載を禁止する規定はない
  2. はてなに問い合わせたところ、増田における他者のid記載は明示的に禁止していない旨の回答があった

ことは当然です。逆にそれ以上のことは、これらの事実から直ちに導けるわけではありません。

どのような増田での個人言及が規約違反となるのか

私とでいだらさんの見解が異なるのは、「ではどのような増田での個人言及が規約違反となるのか」という点です。

この点について、でいだらさんが迷惑行為等(≒規約違反*1として想定している「刑法上の名誉毀損・侮辱に当たる行為や、被言及者が被言及を嫌がっているのに被言及者に精神的苦痛を与えるために言及を重ねる行為など」というのは、増田でなくidを出したブログで行っても規約違反となりうるものです。でいだらさんは、「削除依頼・削除の有無」は「規約違反か否か」の判定に影響しないとも述べておられますから、おそらくは、「増田とidを出したブログの違いは個人言及した場合に当該個人からの削除申立てによって照会なく削除されるかどうかという点だけであって、規約違反かどうかを判断するうえでは違いはない」とお考えなのではないかと思います。

しかし、私はこのような見解は誤りだと思います。その根拠についてはすでに拙見解記事で示しているのですが、改めて述べておくと、はてラボ開発者ブログの記事*2(以下「ラボ記事」といいます)に以下のような記載があるからです。

はてなは、はてな匿名ダイアリーについて、投稿者が表示されず文責を問いにくいサービスであるという性質上、特定のユーザーや個人を批判・攻撃する文章を公開する目的での利用を適切とは考えておりません。特に、投稿者が表示されない状況を悪用し、言及された当事者が掲載を望まない内容を意図的に投稿する行為は、嫌がらせ、迷惑行為に該当すると判断して差し支えないものと考えます。

ルールを解釈するにあたって、立案関係者の解説を参照するのは当然のことです。このラボ記事は立案関係者の解説に相当するものと言ってよいと思いますが、その中で、「投稿者が表示されない状況を悪用し、言及された当事者が掲載を望まない内容を意図的に投稿する行為は、嫌がらせ、迷惑行為に該当する」と明言されているのです。

引用文中に増田の「投稿者が表示されず文責を問いにくいサービスであるという性質」への言及があることからも分かるとおり、ここでラボ記事が問題としているのは、増田が原則として発言の責任を取らなくてよい場だということです。

たとえば同じ匿名であってもidを出している場合には、継続的に運用することによって、当該idの人格と言動とはひもづけられます。たとえば増田ではg××××さんやz×××さんへの罵詈雑言が頻繁に投稿されていた(いる?)のですが、これはそれらの方の発言が当該idとひもづけられ、評価されている結果にほかなりません。idを出している場合には、このような形で言動に対して一定の責任をとるだけの仕組みが確保されているのです。

こうした見地からすれば、裏づけの取れる形でidを明らかにしているような増田については、責任をとる主体が明確になっており、「投稿者が表示されない状況を悪用」していないと解する余地もあるかもしれません。しかし、増田での個人言及の大半はidを明かさないまま他者を批判するものです。これは文責を問われない立場から一方的に他者を攻撃するものにほかならず、ラボ記事が問題視する用法そのものですから、「投稿者が表示されない状況を悪用」していると言ってよいでしょう。そして、文責を問われない立場から一方的に攻撃されることを望む者は少ないでしょうから、普通は「言及された当事者が掲載を望まない内容を意図的に投稿する行為」にもあたるものと思われます。したがって、増田での個人への言及は基本的に「投稿者が表示されない状況を悪用し、言及された当事者が掲載を望まない内容を意図的に投稿する行為」に該当し、「嫌がらせ、迷惑行為」としてはてな利用規約6条2項dに違反すると、私は考えます。

なおこのように考える場合、「削除依頼・削除の有無」は、被言及者が言及を望むかどうかを判断する指標として、「規約違反か否か」の判断に影響することとなります。また、誹謗中傷を含まないいわば「まともな」批判については、idを出したブログで行うか増田で行うかによって、利用規約違反にあたるか否かの判断が変わりうることになります。idを出したブログで行う場合には、「まともな」批判は健全な言論活動であって咎められるべきものではありませんから、基本的には利用規約違反にあたりません。しかしこれを増田で行う場合には、文責を負わない立場から一方的に他者を論うことになりますから、被言及者が言及を望まない場合には、基本的には利用規約違反にあたることになります。この点が、私とでいだらさんの見解で最も大きく異なるところだろうと思います。

おわりに

以上、私とでいだらさんの見解の一致するところ、異なるところを整理するとともに、私が増田での個人への言及は基本的に規約違反であるとする理由について、改めて説明しました。正直なところ、私の主張については拙見解記事において必要十分に論じたと考えており、今回内容的に新たに付け加えたところはありません。かみくだいた説明をすることによって、少しでも私の言わんとするところについて理解を深めていただけたなら幸いです。

最後に差し出がましいようですが、でいだらさんに1つだけ進言しておきたいことがあります。すでに拙見解記事でも言及しているのでご承知のこととは思いますが、ラボ記事には以下のような記述があります。

はてな匿名ダイアリーへの投稿が申し立てにより削除されたにもかかわらず繰り返し同様の投稿を行う悪質なユーザーは、はてラボおよびはてな全体のサービス利用停止措置などの対象とし、別のアカウントを取得しての再利用もお断りします。 

削除されたにもかかわらず増田での個人言及をくりかえすユーザーは、はてラボおよびはてな全体のサービス利用停止措置などの対象となるのです。でいだらさんは、このことの意味を十分理解しておられるでしょうか。

率直に申し上げて、でいだら記事は「増田での個人言及は利用規約違反ではないからやってもよい」というメッセージを与えかねないものだと思います。もちろん、記事にそのようなことはひと言も書いてありませんし、実際でいだらさんはそのような意図であの記事を書いたのではないでしょう。そのことは私には分かります。しかし残念ながら、世の中にはそれが分からない者、自分の望む結論を勝手に読みとる者がいるのです。そうした者は、でいだら記事を見て、増田での個人言及にある種のお墨つきをもらったと考えるでしょう。そして、「規約違反ではないのだから」と増田での個人言及をくり返し、結果はてなから利用停止措置をとられる。そのような事態に立ち至る可能性は、それなりに高いと思います。もちろんそれはその者自身の責任でしかないのですが、だからと言って、自身の記事を読んで行動に及んだ結果不利益を被っている者を見て、「自業自得だ」「私には責任はない」と平然としていられますか。私にはちょっと無理ですし、おそらくはでいだらさんも同様ではないでしょうか。もちろん最終的な判断はでいだらさんにお任せしますが、私としては、でいだら記事は取り下げるなり補足をいれるなりした方がよいと思います。

*1:はてな利用規約6条2項dは、「嫌がらせ、迷惑行為」等を禁じています。

*2:http://labo.hatenastaff.com/entry/2014/09/04/182358